朝食のテーブルは、静かだった



カチカチとフォークの音だけが響く
はパンを一千切り分口に放り込んだ


「おいしー!!」


ハリーも次々と手がのびる

モリーでさえも、唖然として二人を見ていた





Act.3 Nocturne Alley again




テーブルに乗っているご馳走を半分ほど平らげたところで、やっとはフォークを置いた


その食べっぷりに慣れたモリーが、「もういいの?」と問う



が、はい、おいしかったですと満面の笑みで答えると、前よりずっと和らいだ表情になった






「そういや、ジニーはまだか?」




の正面に座っているパーシーがパンを頬張りながらきいた





「ジニーって、誰?」

ハリーがロンに耳打ちする




「僕らの妹さ。ほら、去年、駅にいただろ?」
「ああ、あのかわいい子。」



が納得した顔で頷いた




そこへ、ナイスタイミングとでも言うべきだろうか、本人がバタバタと階段を下りてきて、台所に飛び込んできた



「ママ、私の、―――!!」
「こんにちは、君がジニー、だよね?」



と目が合った瞬間、ジニーは真っ青になり、口をぱくぱくさせると、また走り去ってしまった




がはてな?、と首を傾げる




「・・・私なんか気に障ること言った?」
のせいじゃないよ」


ロンが器用にナイフでソーセージを切った


「ジニーのやつ、夏休みに入ってから君たちの話ばっかりするんだぜ。もう、うるさいのなんのって・・・」



深刻そうにはぁ、とため息をつく




「あいつ、絶対サイン欲しがるぜ」




フレッドがニヤッとして言うと同時に、玄関の扉が開いた




「やぁ、ただいま!!」


明るい声が響いた
会ったことはなくても、すぐにには誰なのかわかった
ロンと同じ赤毛―――ロンの父親だ




「ひどい夜だったよ―――おや、こちらの方は?」


です。」
「ハリー・ポッターです。」


とハリーがそれぞれ軽く会釈した



「子供たちが連れてきたんですよ。アーサー、あなたが魔法をかけた車でね


モリーが凄みのある声で言った
ところが、アーサーはそれに気付いているのかいないのか、ぱぁっと顔を輝かせた



「それじゃあ、やったのか!!!??」


三兄弟が何かをやり遂げたような笑顔で揃って頷いた
アーサーは今にも舞い上がりそうなテンションだったが、モリーがにらんでいることに気付くと、慌てて「イカンことだぞ」と低い声で付け足した



アーサーは再びとハリーの方に向き直ると、改めて自己紹介をした



「アーサー・ウィーズリーだ」



が握手をすると、それはもう万力とでも言わんばかりの力で振るもんだから、手が少ししびれた
ハリーも同じ目に合った

―――今度から握手するときは気をつけよう

今日見つけた教訓だった






「ところで、」



アーサーは手をすり合わせながら、とハリーに詰め寄った



「あの、マグルが使う、なんと言ったかな・・・そう、電気のプラグと言うのは、どういう仕組みなのかね」
「えっと・・・それは・・・」



ハリーが回答に困っている所で、いきなり窓に何かがぶつかった音がした


モリーがパーシー、見てきて頂戴というと、パーシーは頷いて、窓から身をのりだした



「ああ・・・、エロールだ」


パーシーがあきれたような表情で窓の下に転がっている灰色の物体を持ち上げた
一羽の老いた梟だった





「ホグワーツからの手紙だ。ハリーたちの分もある」
「ダンブルドアはなんでもお見通しなんだなー」


フレッドはのんきに言ったが、手紙に目を通した瞬間顔をしかめた



「ロックハートの本のオンパレードだ!!」
「何これ、有名な人なの?」


が訊いた



「いや、でも魔女たちには人気があるみたい」


フレッドは答えた後、に耳打ちした



「ママったら彼にお熱なんだ」





ふーん、とが声を発した






「この一式は安くないぞ。何しろロックハートの本は高いんだ・・・。」
「まあ、なんとかするわ」


モリーは少し心配そうな顔をした










数日か経った後、一行はコートを着込み、暖炉の前に立った
モリーが植木鉢を取った



「さぁ、ハリーからどうぞ!」



植木鉢をハリーに差し出す

ハリーがあせっているのを見て、ロンが気付いた



「ハリーたちはフルーパウダーを使ったことがないんだ」
「あら、そういえばそうだったわね。じゃあ、ロン、先に行って頂戴」


ロンは頷くと、ハリーとに見てろよ、というような視線を送った



植木鉢に近づき、キラキラ光る粉を取り出すと、暖炉の中に入る
「ダンアゴン横丁!」と言うと同時に、炎はエメラルド・グリーンに変わり、ロンは消えた




「・・・え・・・?何、が?」




ハリーは初めて見るものに混乱した
が説明をするように言う



「場所の名前をいうと、そこまで移動できる粉、だよ。」




ハリーが唖然としているのを見たが、本で読んだ、と付け足した





「あら、はフルーパウダーを知っているのね」



モリーが上機嫌で言った直後に、は嫌な予感がした




「じゃあ、から先に行ってもらいましょう。どうぞ」
「え、いや・・・でも、本で読んだだけで使うのは初めてなんです・・・」





それでも大丈夫、とあまりにもにこやかにモリーが言うものだから、は覚悟を決めてフルーパウダーを手に握った





「はっきり、発音するのよ」




は頷くと、フルーパウダーを暖炉の中に投げ入れ、目をつぶって自分も飛び込んだ
途端に、暖炉いっぱいの灰を吸い込んだような気がした





「ダ、ダイアゴよこ、ちょ!!!」






ボッと炎の色が変わり、の姿は消えた





「・・・、さっき“ダイアゴよこちょ”って言ったように聞こえたんだけど・・・」




ハリーの呟きにその場にいた全員が小さく頷いた













「うぉおあああ!!!??」






一方、は轟音と共に、急落下していた
正確には急落下していると感じた、の方が正確だろう
何かが目に飛び込んだ瞬間、は冷たい地面に打ち付けられた






「いったぁ!!!!」





頭から落ちたようで、おでこを思い切りぶつけてしまったようだ
は丸くなり、手で頭を抑えた






「誰だ!!」



そこにいた人が音に気付いたらしい
は無理やり腕をつかまれて暖炉から引きずりだされた





「・・・・・・」
「・・・・・・え?」




はぼけーとして目の前にいる人物を見つめた



「ドラコ?」
!!??何してるんだ、こんなところで」



ドラコが目を真ん丸くして驚いている
続いて、もう一つの、聞き覚えのある声がした



「ボージン君、その子供は息子の友人だ。離してやれ」


の腕が解放された



「えっと・・・、ルシウス、さん?」
「ああ、久しぶりだな」




ドラコは珍しく父親が優しく話しかけているのを見て、目をぱちくりさせたが、すぐにの方の向き直って「怪我はない?」と尋ねた



「うん、なんとか。・・・ここは?なんか、ダイアゴン横丁じゃないみたいだけど・・・。」


はくるりと回りを見回した。どこかの店のようだ
さっき腕をつかんだ人は、どうやらこの店の従業員のようなものらしい



「ああ、ノクターン横丁だよ」
「・・・。・・・また間違えてきちゃったんだ・・・。」
「そういえば一年生のときも迷って父上に助けてもらったって言ってたね」
「は、はは・・・」




二度も間違える自分を情けないと思いつつ、は苦笑した





「決まりだ」
カウンターの方からルシウスの声がした
「ドラコ―――それとも、行くぞ」




「は、はい。」



ファーストネームで呼ばれたことに少し驚きながらも、はこっちこっちと手招きするドラコについて行った







店から出ると、確かにそこは一年前にも来たノクターン横丁、そのものだった





「・・・なんか縁があるのかなぁ・・・。ここ、私と。」



ボソッと呟いたが、ドラコとルシウスには聞こえていないようだ




「それで、今回はまたなんでこんなところに?」



ドラコがに訊いた



「・・・。多分フルーパウダーを使ってるときむせながら名前を言っちゃったからだと思う・・・。」


ドラコが呆れたような表情をする
は構わず(気付かず)続けた


「で、飛んでる間も暴れてたから・・・、変なところに落ちた、のかな?きっと・・・うん、多分そう。」





自信なさげにが答えた






「ダイアゴン横丁に帰る道はわかるか?」





ルシウスが口を挟んだ
はそれが・・・と口ごもってしまった



「誰か一緒にいる者は?」
「いや、ウィーズリーおじさんたちとダイアゴン横丁に行くつもりだったんですけど、さっき言った通り私だけはぐれちゃって・・・」


ウィーズリーときいた瞬間、マルフォイ親子は同時に顔をしかめた



「じゃあ、僕もこれから書店に本を買いに行くから、も一緒に行くかい?」
「え、いいの??」
「もちろん!」


ドラコがいいよね、父上、と愛想良く訊いた


「・・・ダイアゴン横丁の入り口までだ」
「え?」



どうして、とドラコは訊きそうになったが、ルシウスの表情が複雑な気がして、口をつぐみ、頷いた






寮が違う二人は、ホグワーツではあまり話す機会もなく、無言で先を進んでいたルシウスが何かを見つけるまで、ドラコはに話しかけっぱなしだった





、ひとまずはここで大丈夫だな?・・・向こうに君の友達がいるはずだ」





ノクターン横丁から出て、ルシウスが言うのと同時に、グリンゴッツ銀行の影からハグリットが現れた



「はい、ありがとうございます。二回も案内してもらっちゃって・・・ごめんなさい」




申し訳なさそうに言うに、ルシウスはフッと笑う



「構わない」
「本当に、ありがとうございます。では」
「また、ホグワーツでな、
「うん。今日はありがと。じゃあね」






一人ずつに別れの挨拶をして、手を振りながら、ハグリットの元に歩いていく
後ろから軽く腕を叩くと、大きな体が振り返った

夏休み前と何も変わっていない

大柄なハグリットの後ろにいたハリーには気付かなかった



じゃねぇか!!!久しぶり」
「うん、久しぶり、ハグリット」



ハグリットは嬉しそうに笑うと、思いついたようにが向かってきた方角を目でたどった




「おまえさん、今年もノクターン横丁に行っちまったのか?しかもまたマルフォイのやつと・・・」
「・・・今年はフルーパウダーで失敗したんだけどね」
「なんだ、ハリーと同じじゃねぇか」
「へ?」




すると、いきなり、ハグリットの後ろから、見慣れた黒い髪の少年が飛び出した


「ハリー!?え、もしかしてハリーも?」
「うん、とは違う店に行っちゃったみたいだけど。・・・あそこはもう行きたくないな」



同感、とが頷いた






「ハリー!!!!!!」



どこかから聞こえる声に反応して、が顔を上に向けると、グリンゴッツの白い階段を栗色の髪をなびかせた少女が降りて来ていた



「ハーマイオニー!!!」



の顔がぱぁっと明るくなった
急いで近くに駆け寄ると、ハーマイオニーに抱きついた




「久しぶり、ハーマイオニー!」
「私も会いたかったわ。話したいこと、いっぱいあるの」
「うん、私も!!!」




と微笑みをかわすと、今度はハリーとハグリットに挨拶した

そこへ、タイミングよくロンが現れた


「「「ロン!!」」」

、ハリー、ハーマイオニーの声が見事に重なった



「ハリー、、どこいってたんだい?みんなすっごく心配したんだよ。」
「ちょっと・・・迷っちゃって・・・。」
「でも、無事でよかった。みんなは後から来ると思う」


ロンはほっとしたように言うと、次にハグリットとハーマイオニーの方を向いた



「久しぶり。ハグリット、ハーマイオニー」



ハグリットがおう、とロンの肩を叩いた

手が肩に触れた瞬間、ロンは去年一年間の経験のおかげで、衝撃を和らげるために素早く少ししゃがむことができた
ハーマイオニーもロンに久しぶり、というと何がおかしいのか、クスッと笑った




「どうしたの、ハーマイオニー?」

「ううん。ただ、私たちって、どこにいても結局四人一緒になっちゃうんだって思って」



ハーマイオニーの言葉に、確かに、と全員が納得する



「やっぱり絆で結ばれてるんだよ、僕たち」


ロンの言葉に、ハーマイオニーが噴き出した



「なんか、ロンじゃないみたい」
「な、どういう意味だよ!!!」




ロンが赤くなって反論した

結局、それで更に笑われることになったのだが






一部始終を見ていたハグリットは、呆れたような、嬉しいような表情をする



「・・・一年経ってもまったく変わらんなぁ」

ぽつりとそう呟いた










あとがき
お久しぶりです((爆
ノクターン横丁再び。ルシウスさん再び。
四人組はいつでもどこでも一緒になっちゃってると嬉しいです。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!
2007.10.8 晴天マユミ
/秘密の部屋/