「・・・そう。私だよ。」
クィレルが指を鳴らすと、どこからともなく縄が現れ、の体に強く巻きついた
はバランスを取れずに、後ろへ倒れこんだ
自分の目を疑った
前を見てみると、クィレルがゆっくりと自分に近づいてきていた
その顔は、いつもの怯えた表情ではなく、痙攣などしていなかった
Act.20 A misunderstanding
は勇気を振り絞ってキッとクィレルを睨んだ
「・・・こんな状況に陥っても、そのような表情をしていられるとは・・・。やはりご主人様の選択はまちがっていなかったようだ」
「なんのこと・・・」
「・・・時が来ればわかる。さて・・・私はこの鏡を調べなくては」
クィレルの歩いていく方を目で追い、は初めて部屋の奥にある鏡に気付いた
「みぞの鏡・・・」
「やっと気付いたようだな。見える・・・見えるぞ。私がご主人様に石を差し出しているのが・・・。どうやって手に入れる!!??」
クィレルはイライラしながら鏡の後ろに回りこんだ
は力を込めて縄を解こうとしたが、結び目は予想より遥かに固かった
左腕はどんどん痛みを増していた
頼りになるのは右手だけだが、肝心の杖に届かない
鏡の後ろでガシャガシャと音がした
おそらくはクィレルが石を探しているのだろう
は更に力を込めた
右腕が切れる感覚がした
―――お願いだから・・・切れて!!!
途端、大きな音が鳴り響いた
クィレルが振り返ったときには、は既に立って杖を構えていた
上着が少し血で染まっている
はそれを脱ぐと、呪文を叫んだ
「ステューピファイ!」
「・・・ちっ!」
クィレルは咄嗟に防御呪文を唱えた
はクィディッチで鍛えた抜群の運動神経で、素早く移動した
は横に回りこんで更に呪文を唱えた
クィレルは横へ避けた
の首に掛かっているペンダントに目を向ける
―――あれで多少封印しているが、やはり魔力は凄まじい
次の攻撃に備えた瞬間、クィレルはの表情の変化に気付いた
「・・・何だ」
目は見開かれ、徐々に光を失っていった
はゆっくりと頭を垂れる
そして、杖を持った右腕を上げた
「・・・・・・」
「・・・インペリオ・・・」
「!!何ッ!?」
クィレルは一瞬自分の耳を疑った
―――バカな!まさかこんな子供に・・・!
そう思いつつ、反対呪文を唱える
―――そんなはずが・・・
「インペリオ。」
は淡々と呪文を唱えた
それはまだ荒く完成度は低いが、さすがに禁断の呪文となると、普通のそれを相手にしているのとはわけが違う
クィレルは小声で悪態をついた
何かに操られている感覚がする
まるで自分が自分ではないようだ
―――誰なの・・・
右手が意識に反して上がる
―――やめてよ・・・
勝手に呪文を唱える自分の口
聞いたことも無いものだ
「・・・出てって!!!」
叫んだ瞬間、のしかかっていた重い感覚が消えた
は目をぱちくりさせて手を握り締め、感覚が戻ったのを確認した
表情がいきなり変わったことにクィレルが少し怯んだ隙に、は呪文を叩き込んだ
閃光が軽く頬をかすめる
―――そろそろこちらからも攻撃を仕掛けないとまずい
クィレルはブツブツと呟いた
次の瞬間、龍の形をした炎が舞い上がった
「なっ!!??」
炎は勢いよくの上空に飛び上がる
次の瞬間、尻尾の方が目の前にあった
反射では咄嗟に体勢を低くした
走ってよけるのだとさすがにきつい
は炎の動きを確認しつつ、部屋のあちこちに目を走らせた
その時、入り口付近にあるものに目が止まった
―――あれだ!!!
は下から襲い掛かってくる炎をジャンプでかわし、そっちへ向かった
クィレルはいきなり走り出したの行く先を目で追った
そして、同じようにそれに気付いた
すぐに炎がの上空を通ってそれに向かった
―――このまま走っても、絶対間に合わない
はその場に立ち止まって杖を構えた
目を閉じる
集中・・・集中・・・集中・・・
ゆっくり目を開けた
杖を前に向ける
「アクシオ!・・・箒よ来い!!!」
次の瞬間、炎が地面に落ち、部屋中が煙に包まれた
の姿も見えなくなる
「箒は燃えたか・・・」
「・・・燃えてないよ」
「何!?」
クィレルが振り向くと、後ろに杖を構えたがいた
箒に乗っている
クィレルの顔が一気に青ざめた
「ステューピ・・・!」
の表情が変わった
クィレルはの目の行く先を見た
「・・・ポッターか」
クィレルはニヤリと笑った
炎がまだ事情を理解しきれていないハリーに向かっていく
「ハリー!!!」
は箒を操ってそのままハリーのいる方へ一直線に向かった
炎を越し、ハリーに手を延ばす
「!!??」
「ハリー!はやく手を出して!」
―――間に合わない!!
はハリーの腕をつかみそのまま横へ投げたが、弾みで箒から落ちてしまった
「!!!」
炎はすぐ目の前まで迫っていた
はぎゅっと目を閉じた
『やめろ!!!』
聞き覚えがある―――感じがする声が響いた
その瞬間、空気の動きが止まった
は恐る恐る目を開けた
炎はどこにもなかった
ハリーはの元へ走っていった
「、大丈夫??」
「うん。あ、でも箒から落ちた弾みに骨にヒビ入っちゃったかも・・・。」
「・・・ごめん・・・」
「ううん、全然平気だよ!!!それより、ハリーが怪我しなくてよかった。」
ハリーは酷い自責の念に襲われた
僕がもうちょっとしっかりしてれば・・・を守れたのに。
はできるだけその事にはもう触れたくなかった
確かに・・・あの場でハリーが来ていなかったら、自分はクィレルを捕まえられていたかもしれないけど―――
それでハリーに責任を感じてほしくない
はクィレルを伺った
ハリーもそれに続く
クィレルは初めて怯えたような顔をしていた
誰かと会話している
もうひとつの声はどこから響いているのかわからない
『俺様の許可なしに、に傷をつけるなと言った筈だ!』
「しっ・・・しかし・・・!」
『口答えするな!・・・いずれ俺様につく女だ。今死んでもらっては困る』
「も、申し訳ありません・・・」
『今度やったら―――命はないと思え』
クィレルはコクリコクリと頷いた
ハリーと目が会うと、また冷たい表情に戻る
「あなたが―――僕はてっきりスネイプだと思ったのに・・・」
「セブルスか?確かに彼はそんな風に見える。でも私なのだよ」
「だけど、スネイプは僕を殺そうとした!」
「いや、いや、いや」
クィレルは笑いながら首を振った
「私が、殺そうとしたのだ。セブルスが反対呪文で邪魔していなければ、もっとはやく叩き落せていたのに・・・」
「スネイプが、僕を守ろうとしていた・・・?・・・じゃあ、ハロウィンにトロールを入れたのも・・・」
「そうだ。その時も、他の先生は全員トイレに向かったのに、あいつだけは四階の廊下に向かった・・・。あいつはいつでも、私を疑っていた・・・。私には闇の帝王がついていると言うのに・・・」
「闇の帝王!?」
が初めて口を挟んだ
「・・・それはヴォルデモートの事・・・?」
「ああ・・・私の行く所、どこでもあの方がいらっしゃる」
「ってことは、この近くにいるってこと!!??」
「・・・・・・」
クィレルは黙り込んだ
は更に問い詰める
「・・・いるんだね?」
「・・・・・・」
『・・・構わん。教えてやれ』
「しかし、あなたはまだ弱っていらっしゃる・・・」
『この程度の力ならある・・・』
クィレルはゆっくりと頭につけていたターバンをほどきはじめた
二人は動かずにその様子をじっと見た
ターバンをほどきおわると、クィレルはゆっくりと後ろを向いた
それを見た瞬間、ハリーは思わず悲鳴をあげそうになった
クィレルの頭の後ろにはもう一つの顔があったのだ
蝋のように白い顔、ギラギラと血走った目、鼻孔はヘビのような裂け目になっていた
『ハリー・ポッター・・・・・・、・・・』
その顔がささやいた
『久しぶりだな・・・。見ろ、この有様を・・・。誰かの体を借りて、初めて形になることができる。・・・しかし、常に誰かが、喜んで俺様をその心に入り込ませてくれる・・・。この数週間は、ユニコーンの血が俺様を強くしてくれた・・・。クィレルが、森の中で血を飲んでいるところを見ただろう・・・。だが、あるものさえあれば、そんなことをしなくてもすむのだ・・・』
ヴォルデモートは一旦言葉を切った
緊張が走る
『・・・お前はわかっているだろう?・・・お前のポケットに入っている、その石だ。』
ハリーとクィレルが目を見開いた
は表情を崩さなかった
冷や汗が一筋、頬を伝わるのがわかった
あとがき
あわわわわ・・・すごい更新送れてごめんなさい・・・
いろいろな事情でこの話を三回消してしまったんですよ・・・
やっとヒロインがヴォル様と対面しましたね
「いずれ俺様につく女だ。今死んでもらっては困る」
ってセリフは言わせたかったので満足してたりします(ぇ
では、ここまで読んでくださってありがとうございました
2006.10.10 晴天マユミ
前/賢者の石/次