暗闇の中、黒いマントを羽織った何かが自分に近づいてくる。


逃げようとしても体が動かない。

頭の中に声が響く


――――――俺様の下につけ、・・・――――――
――――――さぁはやく来い、・・・――――――


声はどんどん大きくなり、頭の中を埋め尽くした。




あきらめかけたそのとき、

一筋の、光が差し込んだ。





Act.18 The Philosopher's Stone




「・・・
「嫌・・・だ。来ないで・・・あっち行って・・!!」
、僕だよ!」


聞き覚えのある声に、ゆっくりと目を開く

目の前にいたのは、心配そうな顔をしたハリーだった

「大丈夫・・・?」


ハリーは敢えて何があったのかは訊かないことにした

はゆっくりと体を起こした
さっき起きたことを思い出し、身震いする


「うん。多分・・・。みんなは?」
「みんな君を探してるよ。マルフォイがハグリットの所に君の事を言いに来て。で、僕が君を見つけたというわけ。」
「そうなんだ・・・。ありがとう。」



ハリーはサッと立ち上がると、にもう一度大丈夫?と訊いて手を差し伸べた
は手を取り、ゆっくりと立ち上がる

呪文らしきものの痛みはなくなっていたが、左手はまだ疼いていた

ハリーは緑の火花を打ち上げた



「・・・ハリー、私、さっき恐ろしいものを見たの。黒いマントを羽織った人がいた・・・」
「!!君も?」
「じゃあハリーも??」
「うん。僕もなんだ。でも僕はすぐケンタウロスに助けてもらえた」
「私もケンタウロスに助けられたの!でも、気を失う前だったから、顔はよく見てないんだ。・・・怖かった。」




ハリーはが小さく震えているのを見て、優しく手を握った
震えが伝わってくる

余程怖い目に会ったのだろう―――自分よりも




しばらく、二人とも黙ったままだった




突然、大きな音とともに、ハグリットがやってきた
続いて不安そうな表情をしたマルフォイ

ハリーとは咄嗟に手を離した


ハグリットはマルフォイに何か目配せした
マルフォイは少し躊躇ったが、ゆっくりの方へ近づいた


「・・・悪かった。一人で逃げて」


小さな声

は驚いた
あのドラコがそんなこというなんて・・・



すぐに、ハーマイオニー、ロン、ネビルも駆けつけた
ハーマイオニーは勢いでに抱きついた
予想していなかったは後ろへ倒れ、地面に生えている木の根に頭をぶつけた


「いったたたた・・・・」


涙目になりながら言う


その場にいた全員が、の無事を確認してホッとした




医務室に言った方がいい、というハグリットの薦めを断り、四人はグリフィンドールの談話室に戻った
マルフォイはスリザリンの寮に戻る際、申し訳なさそうな表情での方だけを見て、小さく「おやすみ」と言った
それを見て男子三人は少しムッとしたが、黙っておいた


「じゃあ・・・僕もう寝るね。おやすみ」


一人だけ寝室に戻ったネビルにおやすみと言い、残った三人は談話室のソファーに腰掛けた
三人ともそれぞれの思いにふけった


ハリーはケンタウロスが言っていたことを思い出した

―――ユニコーンの血は、たとえ死の淵にいるときにでも命を長らえさせる。だが、その血が唇に触れた瞬間、その者は呪われる―――
―――しかし、他の何かを飲むまでの間だけ長らえればよいとしたら・・・、完全な力と強さを取り戻してくれる何か、決して死ぬことのない何か―――
―――力を取り戻すために長い間待っていたのは誰か、思い浮かばないですか?―――



そして、ハグリットの言葉を思い出す

―――あやつが死んだと言う者もいる。俺に言わせりゃ、くそくらえだ。やつに人間らしさのかけらでも残っていれば死ぬこともあろうさ―――



ハリーは少し躊躇ったが、やはり自分の考えを他の三人に言うことにした


「みんな、ちょっときいてくれるかな」


、ロン、ハーマイオニーが一斉にハリーの方を向く
ハリーはケンタウロスに言われたこと、ハグリットの言ったことを話した



「スネイプはヴォルデモートのためにあの石が欲しかったんだ―――ヴォルデモートは森の中で待っている」
「頼むからその名前を言わないでくれ!」



ロンは恐々囁いた

ハリーが言うなら、と、も自分の身に起きた事を言った



「私・・・クィディッチの時と同じような声を聞いたの・・・。物凄く恐ろしかった。『、俺様のもとに来い』、って。それから―――いや、やっぱりなんでもない」


呪文の事は敢えて言わないことにした
ハーマイオニーは複雑な表情をしたが、ゆっくりと口を開いた


「ねぇ、『例のあの人』が唯一恐れてる人って誰か、知ってる?」


三人とも首を横に振った


「ダンブルドアよ。先生がいる限り、あなたたちには指一本触れることはできないわ。」


ハーマイオニーは安心させるようににっこりと笑った
もハリーもつられて微笑んだ








試験は予想していた程難しくはなかった
筆記試験は、カンニング防止用の羽ペンが配られた事以外、マグルの学校と同じだったし、実技試験も割と簡単だった

最後の試験の魔法史の答案が集められた時、教室全体が歓声に包まれた



結果が発表されるまで後一週間もある
それまでは自由の時間が待っている


ハーマイオニーは試験の答え合わせをしたがったが、これにはさすがにも反対した
頑張ったんだから少しぐらいはやすんだっていいと思う、というのがの言い分だった


ハリーは試験が終わったのに何故か気分があまり晴れなかった
何か―――何かすっきりしない物が―――



答えはハグリットの小屋を通った時すぐに出た



「そうだ!!なんで気付かなかったんだろう!」
ハリーがいきなり叫んだ


「何が?」
「おかしいと思わないかい?ドラゴンを欲しがっていたハグリットの前に、いきなりドラゴンの卵を持った人が現れた。話がうますぎるよ!」



その言葉で三人はハリーの言っている意味の重大さに気付いた




ハグリットは家の外で笛を吹いていた
ハリーに気付くと、いきなり笛を止める
何故か止まる前に何度か半音階ずつ下がって、は少し変な感じがした


ハグリットは何かを言おうとしたが、ハリーの方がはやかった



「ハグリット、ドラゴンを賭けで手に入れたって言ってたよね?相手、どんな人だった?」
「わからんよ。マントを着てたし、フードまでかぶってたからな」


ハリーはその場にへたりこんでしまった
が続けて訊いた


「その人さ、フラッフィーに興味持ってた?」
「ああ、そりゃな。」

ハグリットが誇らしげに言った

「頭が三つある犬なんて、魔法界にもそういないからな。しつけるのは大変かときかれたが、なだめ方さえわかりゃ大したこたぁねぇ。フラッフィーの場合は音楽さえ聴かせりゃすぐにおねんねするって言ってやった」



ハグリットが話し終える前に四人は走り出していた


マクゴナガルが教室で仕事をしている所へ、四人は飛び込んだ



「校長先生にお会いしたいんです!」
「校長先生なら今いらっしゃいませんよ。魔法省からお手紙がありまして。」
「留守!?こんな大事な時に!」


マクゴナガルはその慌て様を見て、何事かと思った


「でも、先生!賢者の石の事なんです!!」


ハリーが思わず言うと、マクゴナガルは羽ペンを落としそうになった
少しの間、沈黙する
マクゴナガルは何故知っているのかと戸惑いながら、口を開いた


「どこでその事を知ったのかはわかりませんが、守りは万全です。」


その後、四人がなんと言おうと、先生は『磐石の守りだから安心しなさい』としか言わなかった


複雑な気持ちで教室を出ると、生徒は殆ど誰も居なかった
何人か残っているだけで、他は全員室外に遊びに行ったようだ



「ダンブルドアに手紙を送ったのはスネイプだ。ダンブルドアが顔を出したら魔法省はキョトンとするに違いない」
「でもどうやって・・・」


ハーマイオニーが話の途中で息を呑んだ
いつのまにか後ろにスネイプがたっていた


「やあ、諸君。こんなの天気がいいのに、室内で何をしている?」
「その・・・私たちは・・・」
「気をつけたまえ。こんな風にウロウロしているのを見られたら、何かたくらんでるように見えますぞ。さあ、もう行きたまえ」


スネイプは大股で職員室の方へ歩いていった
ハリーはそれを見て決心した


「・・・僕は石を探しに行く。」
「気は確かか!?」


ロンが言った
ハーマイオニーも仰天してロンに続いた


「だめよ!そんなことしたら退校になっちゃうわ!」
「だからなんだっていうんだ!?」

ハリーが叫んだ
ハーマイオニーはその剣幕に後ずさりする

「わからないのかい!?スネイプが石を手に入れたら、ヴォルデモートが帰って来るんだ!奴がすべてを征服しようとしていたとき、どんなありさまだったか聞いてるだろう!?そうなったら、もう退校がどうのこうのっていう問題じゃなくなる!ホグワーツ自体がなくなるか、闇の魔術の学校になってしまうんだ!」
「私もハリーに賛成。どっちみち、行かなかったとしても、ヴォルデモートが復活して、死ぬのが少し遅くなるだけだし。」


はハリーに頷いて見せた
ハリーも本当はを危険な目にあわせたくなかったが、自分と同じ道を歩んできたから、気持ちも同じだと思った

なら来るなと言っても絶対来るに違いない。僕だってそうする。


「だから、君たちがなんと言おうと、僕たちは行く。いいかい、僕たちの両親は、ヴォルデモートに殺されたんだ。」


ハリーは二人を睨みつけた


「・・・そのとおりだわ。ハリー。」

ハーマイオニーが折れた

「僕たちは透明マントを使う。戻ってきたのはラッキーだったよ。」
「でも、四人、入るかな?」
「四人って・・・君たちも来るつもりかい?」
「バカいうなよ。ハリーとだけを行かせると思うかい?」
「もちろん、そんなことできないわ。」

ハーマイオニーが威勢良く言った


「で、いつ探しに行くんだ?」


ロンが訊いた
ハリーは息を吸い込んだ



「・・・今夜だ。」




あとがき
なんか前半ちょっとだけハリー夢っぽいかなぁ・・・って思いました。
次回はいよいよ石探しに出発です!・・・多分。
ヒロインのマントも使いどきか!?なんて考えちゃってたりしてます。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました。
2006.8.14 晴天マユミ
/賢者の石/