「これ、本当に全部頂いていいんですか・・・?」




今までにないくらい目を輝かせて言うにモリーがにこにこしながら頷く




「やったぁ!!頂きます!!」




目の前にある白い物体が入ったグラスをすごい勢いで掴むと、スプーンを使って口に運ぶ





、本当に好きだよね・・・」



アイスクリーム、とハリーが呟く

それを聞き逃さなかったがしかも杏仁味!!と指を立てた




「去年のホグワーツじゃあ、アイスばっかり食べてたもんなぁ・・・」



が二杯目に手をのばしている間に、ロンがしみじみと言った






ホグワーツへの出発を次の日に控え、今日はモリーが奮発して豪華な夕食を作ってくれたのである
元々、デザートは糖蜜のかかったケーキの予定だったが、ロンが



「そういえば、ってアイス好きだよね」



と、口走ってくれたお陰で、モリーが機転を利かせて家にあるもので作ってくれた
杏仁の粉はどこから手に入れたのだろうか、が持っていた
本人曰く、必需品らしい



七杯目に手をのばしたところで、さすがにハリーが止めに入り、その日の食事はお開きとなった





「もっといけたんだけどなぁ・・・」





寝言かどうかわからないが、就寝前にこんな呟きが聞こえた人が何人もいたとか





Act.5 I'm home




去年より速い足取りで柱に向かって走っていった
すぅ、と一瞬回りが闇になるのと同時に、ホグワーツ特急が目の前に現れた






後ろからモリーとアーサー、それと不安そうに手を引かれたジニーがついてくる





!!ジニーを頼めるかしら?」




モリーが早口に言った
は頷き、モリーにありがとうございました、と伝えると、ジニーの手を引いて列車に飛び込んだ
(手が触れた瞬間、ジニーはピクッと震えたが、すぐに握り返してくれた)






本当はもっとしっかりお礼を言いたかったが、そんな余裕はなかった
というのも、準備は万端だったはずなのに、当日の朝になってからトラブルが続発したせいである



乗り込んだ次の瞬間、ドアが閉まり、列車は発車した




「あ、危なかったぁ・・・」




思わずその場にへたり込んだ



「あ・・・、の」





遠慮しがちな声に顔を上げる



「・・・え、どうしたのジニー!?」



目の前にある顔を見て、慌てた
何をしたわけでもないのに



「な、なんで真っ赤なの!?大丈夫!?」



いくら問いかけても、口をぱくぱくさせるだけで、返答がない
本人としては、まさか手を握られたことが恥ずかしかった、なんて言えるはずもなかった

は取り敢えずジニーのおでこに手をピタッと当ててみた


「熱は・・・、ないよね。よかった」


手を離して、にっこりと笑う


「それじゃあ、取り敢えず空いてるコンパートメント、探そっか」

それによってジニーは更に顔に血が上るのを感じたが、は気付いていないようだったので、ほっと胸をなでおろした











「え・・・、っと。あ、あったあった」


奥の方に空のコンパートメントを見つけ、戸を開けて中に入り込んだ
ジニーも俯き気味にの前に座る





しばらくの沈黙




「え・・・、っと。ハリーとか、ロンとか、呼んできた方がいい・・・、かな?」


心配そうに覗き込んでみると、ジニーは何かをぶつぶつ言っているようだが、聞こえない


「ジニー?」
「・・・たい」
「?」
と、二人で話したい」


はそれを聞いて一瞬驚いたが、すぐににかーっと笑った


「わかった。じゃあ、今日はゆっくり話そう!!」










ジニーが漸く落ち着いてに話しかけることができるようになったとき、突然コンパートメントの扉が乱暴に開かれた



「ねぇ、ハリーとロンを知らない!?」
「ハ、ハーマイオニー?」



少し青ざめているハーマイオニーはコンパートメントを一通り見回して、やっとのことでの存在を認識した



「あら、じゃない。久しぶり!えっと、そちらは確か・・・」
「久しぶり!この子はジニーだよ。ほら、ロンの妹さん」
「こ、こんにちは・・・」



ジニーが小さく呟いたのを聞いて、ハーマイオニーはにっこりと挨拶を返した




「・・・そうよ!!ロンと言えば!、ジニー、ハリーとロン見てない!?」
「見てない・・・よね、ジニー?」



ジニーが頷く
ハーマイオニーが来るまでの間、誰もこの部屋には出入りしてなかったはずだ



「いないの?」
「そう!フレッドとジョージにも聞いたんだけど、二人とも知らないっていうし・・・」




はふと、さっきコンパートメントを開けたハーマイオニーの勢いを思い出した
誰それかまわずあのように飛び込んだのだろうか


「さすがハーマイオニー・・・」
「何?」
「う、ううん!なんでもない!」


思わず出てしまった言葉をハーマイオニーに聞かれてしまい、は慌てて口を塞いだ



「とにかく、私達も探すよ!」



ハーマイオニーはお願いと言うと、そのままコンパートメントを飛び出した
しばらくして、隣のコンパートメントが開く音が聞こえた




「私達も行こう、ジニー!」
「う、うん」












かれこれ一時間は探しただろうか
へとへとになりながら、は椅子に座り込んだ


「ハリーとロン、どこ行っちゃったんだろう・・・。駅までは一緒だったのに・・・」



隅から隅まで探したはずなのに、二人はどこにもいなかった



「まぁ、あいつらだったら平気だろ」
「元気出せよ、。ホグワーツでまた会えるって」




前の席に座っている双子が口々に言う
はそれに力なく微笑み、すぐそこまで来た社内販売のおばさんを呼び止め、五人分のサンドウィッチを注文した
一つのコンパートメントにそれだけの人数はさすがにきつく、小柄なジニーがフレッドとジョージに挟まれる形で座ることになった



「お、なんだなんだ?今日はの驕りか?」
「あっちゃー。ロンのやつ勿体ないことしたなぁ」
「ありがとう」




目を輝かせながら配られた食べ物をもらう双子に続いて、ジニーがおどおどとから昼食を受け取った



「ありがとう、。・・・まったく、あの二人は何を考えてるのかしら・・・」





ハーマイオニーはそう言ったっきりぷいっと顔を背けてしまった
そんなハーマイオニーを心配そうに見てから、は包みを解いてサンドウィッチを口に入れた
気持ちの問題かどうかはわからなかったが、いつも食べるそれより美味しくない気がした










「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」



の朦朧とする意識の中に車内放送が割り込む
ゆっくりと目を開くと、列車の外はもう暗く、バタバタとした足音が聞こえた



「あ・・・れ・・・?」
「お目覚めですか、お嬢様?」



いきなりそう呼ばれたことにぎょっとして飛び起きると、声を発した当の本人がケラケラ笑いながらを見ていた


「え・・・?私・・・?」
「俺達の武勇伝を語ってる最中にいきなり眠りだすなんて、もいい度胸してるよなー」
、全然気にしなくていいのよ。私達も眠っちゃいそうになって、結局別の話になったんだから」
「「なんと!ひどいよ、ジニー!」」





ジニーの容赦ない一言で、双子が大袈裟に落ち込むしぐさをした




、もうすぐホグワーツに着くわよ。着替えた方がいいわ」
「あ!そうだった!」



ハーマイオニーの言葉で、は隣に用意しておいた黒いローブを羽織った









五人はホグズミード駅に降り立った




ジニーは他の一年生と一緒にハグリットに連れられて、達とは違う方向へ向かっていた




は大きく息を吸い込んだ
懐かしい空気が肺いっぱいに広がる
思えば二ヶ月前、同じ場所を暗い気持ちで去ったものだった







、こっちよ」




ハーマイオニーが手招きする
それにつれられ、は駅から出てぎょっとした




百台はあるだろう、馬なしの馬車がずらりと並んでいた




「「まぁ、初めて見たときにはびっくりするよな」」
「わぅ!?」






さっと後ろを振り向くと、ニヤニヤ顔のフレッドとジョージがを見下ろしていた




「ここ、こっちの方がびっくりしたよ・・・!!」






真っ赤になって反論すると、双子は至極楽しそうな顔をして悪友であるリー・ジョーダンと同じ馬車に乗った

はまだばくばく鳴っている心臓を抑えてハーマイオニーの隣に座った






馬車はホグワーツに向かってガラガラと進んだ
何も知らない者から見れば、百数台ものそれが長い行列を作り走っている様子は悪夢に値するだろう



羽の生えた猪の像が両脇に並ぶ校門をとおり、馬車は曲がりくねった道を進んだ
ホグワーツ城が近づいてくるのに比例して、直りかけていたの心拍数もまた上昇していった





正面玄関に続く石段の前で馬車は止まった





それを確認し、は勢い良く馬車を飛び降りた


他の生徒が石段を既に登り始めている横で、はゆっくりと壮大なホグワーツ城を見上げた









去年、この城でヴォルデモートと対決した




あの時に感じた痛みは、もう二度と味わいたくない
しかし、ゆっくりと振り返れるようになった今だからこそ言えることだが、は心の奥底・・・、どこかで楽しんでいる自分に気づいていた




そして、ドビーにされた忠告


もちろん、それを聞いたときは、恐怖がなかったわけではないが、今年もまた何かあると思うと、自然と胸が高鳴った






?どうしたの?」





石段を登る手前まで足を進めたハーマイオニーがを心配そうな顔で見た



「すぐ行くよー!」



大声でハーマイオニーに呼びかける
それからもう一度目の前に佇む暗闇に紛れた城を見上げた






「ただいま、―――ホグワーツ」






あとがき
たまには“ペアと考えてもいい”ハリーと離れさせようという企画。(何)
主人公が出ていないところでヒロインを動かす難しさを知りました・・・。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!
2008.8.13 晴天マユミ
/秘密の部屋/