誕生日とは、普通、誰にとっても嬉しい日のはずである。
だが、今日、七月三十一日
約二名の例外がいた
Act.1 The Warning
「クィディッチやりたい。」
は唐突にきりだした
夏休みにホグワーツから帰ってすぐ、とハリーはすべての魔法に関する物を取り上げられた
杖も、ローブも、鍋も、そして箒も、今は一年前までとハリーが暮らしていたほこりっぽい階段下の物置にしまいこんである
ハグリットからもらったアルバムだけは、辛うじて隠すことができた
「、そんなこと言ったって・・・」
「だって!!」
はバンッと立ち上がり、身振り手振りを加えて熱く語り始めた
「一ヶ月以上もクィディッチしないなんて考えられないよ!!箒をください!!エキサイティングをください!!!って感じだもん!今!!!」
「・・・なんか文法無茶苦茶な気が・・・。」
「と に か く っ !」
はもう一度イスに座りなおした
「・・・はやくホグワーツに戻りたい。」
さっきのテンションとは一転、ははぁとため息をついた
ハリーは困ったようにそれを見ると、の近くまで歩いてきて頭を軽くポンポンと叩く
「後ちょっとの辛抱だよ。」
「・・・なんかそれ子供扱いっぽいんだけど・・・。」
「まぁまぁ。実際、ってそんな感じだし。」
「なっっ!!それって私が子供っぽいって言ってるの!!??」
が慌てて問いかけると、ハリーはまるで質問を予測していたかのように「うん」と即答した
は赤くなって口をぱくぱくさせていた
自分の行動はそんなに子供っぽかったのだろうか・・・?と少し不安になる
その時、下から怒鳴り声が聞こえた
「二人とも降りてらっしゃい!!夕飯だよ!!」
この声で、とハリーのテンションは一気に下がった
重たい足取りでリビングに入ると、テーブルにパンとチーズが乗っかっていた
台所の方からは、ローストポークが焼けるいいにおいが漂ってきていた
は食事を飲み込むと、早々と二階に帰ろうとしたが、バーノンに首根っこをつかまれる
「・・・何ですか。」
バーノンはを無視すると、重々しく咳払いした
「さて、みんなも知っての通り、今日は非常に大切な日だ」
ハリーは顔をあげた。まさか、僕らの誕生日のことを言ってるのだろうか。
だが、次の言葉でその淡い希望も消えた
「今日こそ、わが人生最大の商談が成立するかもしれん。そこでだ。みんなでもう一度手順を復習しようと思う。」
は小声で「あほくさい・・・」と呟いたが、幸い誰にも聞こえなかった
「八時に全員位置につく。ペチュニア、お前はどの位置だね?」
「応接間にて、お客様を丁寧にお迎えするよう、待機してます。」
「よしよし。ダドリーは?」
「玄関のドアを開けて差し上げる」
ダドリーが手で扉を開けるしぐさをした
「上出来だ」
バーノンはにこにこしながら言った
「で、」
そして、突然荒々しくハリーの方を向いた
「おまえは?」
何も言おうとしないハリーに代わって、扉の近くにいるが答える
「自分の部屋にいて」
バーノン、ペチュニア、ダドリーが一斉にの方を向く
「物音を立てずに、いないふりをします。これでいいですか?」
「その通りだ」
バーノンが嫌みったらしくいった
「まったくもって、その通りにしろ。さっさと自分の部屋に戻れ」
は踵を返してリビングの外へ向かった
イライラしながら階段を上る
ここにいると、ホグワーツがどれだけよかったか実感できた
確かに、楽しいことばかりではなかった
ヴォルデモートと一対一の対決もした
今考えてみると、ヴォルデモートの声を聞いたときに、わずかながら感じたあの懐かしさはなんだったのだろうかと思う
本当に、ほんの少しだったが、あの声は聞き覚えがあった
―――いや、本当は声だけじゃない
クィレルのターバンが解かれた時、ハリーは恐怖を感じていたようだが、はそれを感じる前に、もう一つ―――心が温まるような感じがしていた
今は包帯が巻かれていない左腕を見やる
髑髏の口から蛇が飛び出している紋章―――はこれを自分で蛇の紋章と呼んでいるが―――と、もう一つの傷が目に飛び込んでくる
初めてヴォルデモートの声を聞いたとき―――その時はまだその声がヴォルデモートのものとは知らなかったが―――この傷がうずいた
同じ方の腕にあるが、蛇の紋章がうずいているのか、もう一つ―――手首の周りを囲み、それに垂直に直線が重なっているこの傷のどちらがうずいているのかは、何故かわかる
いつもうずくのはこっちの傷なのだ。蛇の方は、まだ何も変化がない
この左腕と、ヴォルデモートと―――そして、あの時感じた懐かしさは何か関係があるのだろうか
左腕についているこの紋章と傷をヴォルデモートがつけたのなら、なおさら謎は深まる
まさか、自分とヴォルデモートに何か特別な関係が・・・?
そんな考えが頭をよぎった。だが、すぐにその考えを頭からはぎとった。
まさか、そんなことがあるはずはない。
寒気がした。早く部屋に戻ろう。
「・・・?」
いつの間にかハリーが隣にいた
はおどろいて少し飛び上がる
「ハハハ、ハリー!!!びっくりさせないでっっ!!」
「・・・僕名前呼んだだけだよ・・・?」
「え・・・?あ、うん・・・」
は自分に落ち着けと語りかけた。今いるのはホグワーツじゃない。
ヴォルデモートについて考えているときに話しかけられるだけでこんなに驚くなんて・・・
ハリーは変なの、というように不思議そうな顔をした
「ちょっと、考え事、してたの。さっ、部屋に戻ろう!」
「?うん。」
は階段を上ると、さっき考えていたことを振り払うかのように勢いよく扉を開けた
はその場に固まった
どうしたものかと後から覗き込んだハリーは危うく叫び声をあげそうになった
ベッドの上に、コウモリのような長い耳をして、テニスボールぐらいの目がギョロリと飛び出した小さな生き物がいた
生き物はベッドからスルリと滑り降りて、カーペットに細長い鼻のさきがくっつくぐらい低くお辞儀をした
「あ―――こんばんは。」
「どうも・・・。」
二人は部屋に入り、音を立てないように扉を閉めると不安げに挨拶をした
「ハリー・ポッター!!!それと・!!!ドビーめはずっとあなた方にお目にかかりたかった・・・。光栄です。」
「「あ、ありがとう」」
ハリーはその生き物がなんなのかわからなかったので、助けを求めるような視線でを見た
「屋敷しもべ妖精だよ」
が小声でいう。
本で読んだことがあった。屋敷しもべ妖精は一つの家に仕え、解放されるのまでずっと働き続ければならないらしい
ドビーは目をぱちくりしながら自己紹介をした
「屋敷しもべ妖精のドビーめでございます。ドビーとおよびください」
「あ―――うん。ドビー。―――あの、気を悪くしないで欲しいんだけど、でも―――今、僕の部屋に『屋敷しもべ妖精』がいると、とっても都合が悪いんだ。その、知り合いになれて嬉しくないってわけじゃないんだけど、あの、何か用事があってここに来たの?」
ハリーは一気に言った
「はい、そうでございます。申し上げたいことがあって参りました・・・複雑でございまして・・・一体何から話してよいのやら・・・」
ドビーがおどおどしているのを見て、が困ったように言った
「取り敢えず、座って」
「『座って』!!?」
は普通に言ったつもりだったが、なぜかドビーはいきなり泣き出した
「ご、ごめん!!」
は階下を気にしながら、ささやいた
「気に障ることをいうつもりじゃなかったんだけど・・・」
「気に障るだなんて!!ドビーめはこれまで、一度も・・・、たったの一度も、魔法使いから座ってなんで言われたことがございません。」
「あんまりいい魔法使いにあったことがなかったんだね」
ハリーはドビーをベッドの上に促して座らせてから言った
ドビーは頷いたが、突然立ち上がるとなんの前触れもなくスポットライトに頭を打ちつけ始めた
は慌ててドビーを引き離そうとしたが、ドビーはなかなかしぶとかった
ハリーが加わり、やっとのことでドビーを引き離すことができた
「いったいどうしたの?」
「ドビーめは自分をお仕置きしたのでございます。自分の家族の悪口を言いかけました」
「・・・家族?」
ハリーは興味をそそられたようだった
「その家族は、君がここに来てることを知ってるの?」
「めっそうもない!!もしここにきていることが、ご主人にばれたりでもしたら―――」
ドビーは身を震わせた
「それでも、ドビーめは警告に参りました。いいですか―――ハリー・ポッターと・は、ホグワーツに戻ってはなりません。」
沈黙があった
「な、なんて言ったの?」
が驚いた声で言った
「そんなの―――無理だよ・・・。だって、ホグワーツは私たちの家なんだよ・・・?」
「いえ、いえ、いえ。あなたがたは安全な場所にいなくてはなりません。今学期のホグワーツは、死ぬほど危険でございます。世にも恐ろしい罠が仕掛けられているのでございます。」
「罠?だけど、誰がそんなことを?」
ドビーは奇妙な声をあげ、狂ったように壁にバンバン頭を打ち付けた
次の瞬間、階段をドスドスとあがる音が聞こえてきた
二人の心臓は早鐘を打った
ハリーはあわててドビーの腕をつかむと、洋服箪笥に押し込んだ
「しばらくそこでじっとしてて!!」
ハリーがそういうのとほぼ同時に部屋の扉がカシャリと開いた
「いったいきさまらは―――ぬぁーにを―――やっておるんだ?せっかくのジョークのおちを台無しにしてくれおって」
「・・・ごめんなさい。」
が頭をさげた
「今度音を立ててみろ、生まれてきたことを後悔するぞ!!」
「はい。」
「それと、箪笥は直しておけ!!」
バーノンは少し揺れている洋服箪笥を見て、はき捨てるように言うと部屋を出て行った
ハリーはバーノンがリビングに入っていったのを確認し、洋服箪笥を開けた
「今の、見たでしょ?」
がドビーに向かっていった
「ここがどんなところか、わかった?・・・私たちはホグワーツに戻んなきゃいけないの。あそこには友達だっている。」
「手紙を一通もくれない友達ですか?」
は言葉に詰まった
確かに、夏休みに入ってから、一通も手紙をもらっていない
「それは、多分―――え?」
は眉をひそめた
「・・・なんで手紙をくれないって、君が知ってるの?」
ドビーはしまったというように口を押さえると、足をもじもじさせた
「ハリー・ポッターと・は怒ってはなりません・・・。ドビーめはよかれと思ってやったのでございます。」
ドビーは着ている枕カバーの中から分厚い手紙の束を引っ張り出した
「・・・僕の手紙を返して」
ハリーの声のトーンが下がった
「ダメでございます!!!」
ハリーはきいてさえいなかった
部屋の外に飛び出したドビーを追いかけ、一階まで駆け下りた
は取り敢えず音を立てないように階段を下りた
しかし、ハリーの視線の先を追うと、信じられないものが目に飛び込んできた
おおきなケーキが、空中に浮遊していたのだ
「ドビー。ダメだよ。お願いだから―――」
は懇願するような声で言った
「ハリー・ポッターと・はホグワーツに戻らないと言わなければなりません―――。」
「「そんなこと言えないよ!」」
二人の声が重なる
「では、ドビーはこうするしかなりません。」
ドビーは指をパチンと鳴らした
デザートはゆっくりと交渉相手―――メイソン夫妻の上へと移動していった
ドビーのいた方を見ると、既にそこには何もいなかった
二人がリビングに飛び込んだときにはもう遅かった―――メイソン婦人が頭にケーキをかぶっていた
「甥と姪でして」
バーノンがなきそうな声で言った
「人見知りが激しいので、二階に行かせておいたのですが―――」
もハリーも、生唾をゴクリと飲みこんだ
次の日。
二人の部屋の窓には大きな鉄格子がはまっていた
あとがき
さぁ、遂にきました秘密の部屋編!!
一話目は今までと比べて長くなりました☆
すっごいテンション高い時に書いたもので・・・。
でも秘密の部屋編だからしょうがないと思ってます(ぇ
はやくリドル出したい・・・出したい出したい・・・!!
・・・・・・。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!
2007.4.22 晴天マユミ
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