Silver Soul
第三話



「副長オオオオ!!」




屯所内に、隊員達の声が響きわたる

まだ朝だというのに、真選組は相変わらずにぎやかである




声の発生源はとある一室
朝のミーティングが行われている部屋だった






「局長が女にフラれたうえ、女を賭けた決闘で汚い手使われ負けたってホントかァァ!!」





その場にいる全員(土方・沖田・を除く)が一斉に叫ぶ
局長・・・・・・つまり、近藤の話らしい






「女にフラれるのはいつものことだが、喧嘩で負けたって信じられねーよ!!」

「銀髪の侍ってのは何者なんだよ!!」




次々に隊士達が声をあげる
そんな中でも、事情を知っている土方と、それに沖田はいたって冷静だった





「会議中にやかましーんだよ。あの近藤さんが負けるわけねーだろが」




さらりと言う土方だが、実際近藤は喧嘩で負けている
その事実を隠すため、隊士には一言も話をしていないのだが、何故か広まっている







「誰だ、くだらねェ噂たれ流してんのは」




知っているのは、土方・。とりあえずで沖田。この3人だけ

誰にも言うなと言ったのに、わざわざ広めたのは・・・・・・








「沖田隊長が、スピーカーでふれ回ってたぜ!!」







・・・・・・沖田らしい









「俺は土方さんとにききやした」





そう言う沖田に、反省の色は全くない

口元に笑みが浮かんでいるところを見ると、やはりわざとのようだ







「コイツにしゃべった俺がバカだった・・・」





あいつなら何もしないだろう。そう思って話したが、よくよく考えてみればそんなことがある筈ない
沖田に限っては、尚更だ



今まで黙っていたも、このときばかりは「あちゃー」と口を開いた






「なんだよ、結局アンタらが火種じゃねェか!!」

「偉そうな顔してふざけんじゃないわよ!!」

「って事は何?マジなのあの噂!?」




沖田の一言をきっかけに、隊士達から罵声が上がる






「うるせェェェぁぁ!!」




そう叫びながら机を蹴り飛ばした土方に、罵声は全て一掃された






「会議中に私語した奴ァ切腹だ。俺が介錯してやる。山崎・・・お前からだ」




刀を抜きながら、鋭い目つきで言う土方
最初の犠牲者は、近くにいたという理由で山崎退に決定したようだ






「えええ!?俺・・・何もしゃべってな・・・」

「しゃべってんだろーが、現在進行形で」




あまりにも横暴だが、今まで騒いでいた隊士達は一瞬で静かになる
ここで騒げば、自分にも火の粉が降りかかるからだ











「ほら、総悟。お前の所為で山崎死ぬぞ」



土方から数歩離れた所で、沖田とはその様子を眺めていた




「なに言ってんでィ。元はといえば、秘密にしておこうとしたお前らが悪いんだろィ」

「オメーがスピーカーでふれ回ってなきゃ、そのまま秘密にしておけたんだよ」




もはや、山崎の心配ではなく罪のなすりつけ


レベル的には、やはり小学生の口喧嘩と例えるのが一番伝わりやすいだろう







「ギャーッ!!副長、マジすか!?これってマジですか!!!」




二人が言い合ってる中、泣き目になっている山崎の叫び声が入る
土方は刀を構え、山崎の肩を掴んでいた










哀れ山崎・・・・・・




その場にいた隊士全員が思った・・・・・・その時








「ウィース。おお、いつになく白熱した会議だな」





がらりと音を立ててふすまが開き、一人の人物が中へ入ってきた



会議中に取っ組み合っているというのに、その人物は全く気にも留めない
いや、慣れすぎて止める気にもならないが正しいのか






「よ〜し。じゃあみんな、今日も元気に市中見廻りにいこうか」





それは、左頬を異常に腫らした近藤であった








「ん?どーしたの?」




負けたというのがすぐ分かる顔で堂々と出勤してきた近藤を見て、皆が黙る







「「ハァ」」




隠そうとしたのが馬鹿馬鹿しいとばかりに、土方とはため息をついた

















「なんですって?斬る!?」




場所は変わって、江戸のとある道


今日の見廻りは隊での行動ではないので、土方・沖田・は一緒に歩いている
・・・・・・何故か、沖田とはバケツを抱えていた





「ああ、斬る」



沖田の質問に答えながら、土方は電柱に張ってあった






白髪の侍へ!!



てめェ、コノヤロー
すぐに真選組屯所に出頭してこいコラ!
一族根絶やしにすんぞ


真選組






・・・・・・と書かれた張り紙を引き剥がした


これまでに何枚も剥がしては捨てているらしく、沖田とのバケツは紙の山となっている






「件の白髪の侍ですかィ」

「いや、銀髪」

「細けェよ。白髪も銀髪も同じような・・・・・・あ、結構違うかも」



「・・・・・・どっちでもいい」





呆れた土方の一言で、総悟との言い争いは終わった






「うちの面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの敵とるって殺気立ってる」




土方との努力空しく、結局隊士達はいろんな所で騒ぎ立てている
この張り紙も、その一つ





「「自ら負けを語るようなものって、わかんないんですかねェ」」

はいいとして、なんでオメーはそういうことわかっててやるんだよ」



声をそろえて言った二人の、沖田だけに言う土方







「ま、でけー事になる前に俺で始末する」




土方も十分騒ぎ立てているが、あえてそれには触れない





「土方さんは二言目には「斬る」で困りまさァ。古来、暗殺で大事を成した人はいませんぜ」


「暗殺じゃねェ。堂々と行って斬ってくる」




そこを堂々としても困るのだが・・・・・・





「そこまでせんでも、適当に白髪頭の侍見繕って連れ帰りゃ隊士達も納得しますぜ」


「だから銀髪」

「しょうがねェだろ。銀髪は人口少ないんでィ」




珍しく口喧嘩にならない沖田


何を思ったのか、突然近くにいた老人の元へ小走りで駆け寄った
そのまま、その老人を連れて戻ってくる




「これなんてどーです。ホラ、ちゃんと木刀もちな」

「ジーさん、その木刀でそいつの頭かち割ってくれ」



どこから出したのか、木刀を老人に持たせようとする沖田
阻止すべく、土方の冷ややかに言う




「パッと見さえないですが、メガネ取ったらホラ・・・・・・」



そう言いながら、勝手にその老人のメガネを拝借する





「武蔵じゃん」


「何その無駄なカッコよさ!!」



その下からは、外見からは考えられないキリっとした目が現れたのだった






「じゃ、ジーさん。行きましょうかね」



探すのに飽きたか、沖田はどうしても、この老人を例の侍に見立てたいらしい
いきなり屯所に進路方向を変えた





「行きましょうかねじゃねーよ。遊んでねーで、さっさと行くぞ」



これ以上時間を無駄にはできないと、土方は先に歩き出してしまった




「ホラ。見たくないのか?近藤さん倒したやつ」



沖田をじらすように、が念を押す




「へいへい、わーってらァ」




白髪の老人に手を振り、走ってに追いついた
二人が並んで歩いている少し前で、土方が一人で歩いている





「マジで殺る気ですかィ?白髪って情報しかこっちにはないってのに」

「侍っつっても、江戸にはいっぱいいますからねェ」



相変わらず沖田は白髪といっているが、さすがには反論しなかった




「近藤さん負かすからにはタダ者じゃねェ。見ればすぐわかるさ」





何とかなるだろ的な事を言った・・・・・・その時だった







「おーい、兄ちゃん危ないよ」




上空から、やけにテンションの低い、やる気のない声が聞こえてきた


何が危ないのかと、土方が上を見ると・・・・・・






「うぉわァアアアァ!!」




・・・大量の木材が束で落ちてきた


ガシャンと音を立てて地面に落ちたそれを、土方は間一髪かわす






「あっ・・・危ねーだろーがァァ!!」



避けた拍子にしりもちをついた土方
そのままの状態で、声の主に抗議をする




「だから、危ねーっつったろ」

「もっとテンションあげて言えや!わかるか!!」




声の主は、近くの建物の屋根から梯子で下りてきた
ヘルメットをかぶっており、顔までは分からないが、どうやら大工か何かのようだ







「うるせーな。他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」



文句を言いながら、頭の“集英建設”と書かれたヘルメットを取ろうとする





ヘルメットの下から現れたのは・・・・・・








「あああああ!!」




くるくる銀髪天然パーマと、死んだ魚のような目・・・・・・





「てめーは・・・池田屋の時の・・・」



坂田銀時、その人であった






「そぉか・・・そういやてめーも銀髪だったな」






こいつなら、近藤さんを負かしたとしても、おかしな話じゃねェ・・・・・・



土方だけでなく、沖田やも同じことを考えた








「・・・えーと。君、誰?」




何の事だかさっぱりわからない銀時は、真選組の事など、とうに忘れていた





「あ・・・もしかして大串君か?アララすっかり立派になっちゃって」



なにやらわけの分からない人物を引っ張り出してくる銀時
もちろん、間違いである





「なに?まだあの金魚デカくなってんの?」



余程大串君に似ているのか、金魚が印象的だったのか、間違いは続く






「オーイ!!銀さん早く、こっち頼むって」



銀時の間違いを止めたのは、同じ様に上から響いてきた声だった

どうやら、仕事中らしい




「はいよ。じゃあ大串君。俺仕事だから」



話を進めるだけ進めて、銀時は梯子を上って仕事に戻っていった










「いっちゃいましたよ。どーしやす、大串君」

「一応追いますか、大串君」


「誰が大串君だ」


「「あんた」」








「・・・・・・あの野郎、わずか二・三話で人のこと忘れやがって」




二対一では分が悪かったのか、何も反論せずに土方は話を変えた






「オイ、総悟・。どっちでもいいからちょっと刀貸せ」




貸せといっても、土方の腰にはちゃんと刀がある






「土方さん。殺る気ですかィ?まだ決まってもいないのに、俺ァ知りやせんぜ」


「違ったら大変ですね。殺さない程度にお願いしますよ」



二人は口々に言い、沖田が土方に刀を渡した





私情で一般市民を斬るのは問題だが、別に止めるつもりは二人にない

というより、興味を持った侍と土方が戦うのを楽しんでいる






「俺の目に狂いはねェ。近藤さんとやったのはあいつだ」




沖田とに始末書を書かされる事になるであろう土方は、自身有り気に言う






「間違ってたとしても、また殺り合えるんだ。損はねェ」






去り際にそう吐き捨て、土方は銀時が使っていた梯子を上っていった










「どう思う、総悟」


「何がでィ?」





土方の姿が完全に見えなくなったあと、二人はあとを追おうともせずその場に残っていた




「勝つとしたら、どっちだろうな」




の疑問に、沖田は少し悩む








「・・・・・・どっちでもいいでさァ」



「だな」





大して土方の心配はしていないようだ








「何がどっちでもいいって?」




背後から、突然声がする




振り向くと、そこには近藤がたっていた






「「近藤さん!」」




先程から一歩も動いてなかった二人は、同じような歩調で近藤の元へ歩み寄った






「二人揃って何やってんだ?トシはどうした?」




土方がいない事に気付き、近藤が二人に問う






「近藤さんと決闘した銀髪の侍らしき奴を見つけたんで、決着つけに行きました」



屋根の上を指差しながら答えた






「近藤さん、行ってきたらどうですか?見たのは近藤さんだけだし」




間違ってたら止めてくださいよ。と、は最後に付け足す





「いいや。トシが自分から行ったんだ、間違っちゃいないだろう」





確かにそうだった


近藤とやったのは銀時。土方は正しかった





「ただ、見られないのは少々不満だな」




そう言いながら、近藤は辺りを見回す
どこか、二人の様子が見られる所を探しているのだ







「あそこなんかどうですかィ?」



最初からそのつもりだったのか、すぐさま沖田が答える




丁度土方と銀時がいる建物の、すぐ横に位置している建物
高さも十分だ






「文字通り、高みの見物といきましょうや」



一番に歩き出した沖田を追って
その後を、やれやれといった感じで近藤が続いた














一方土方は





「爆弾処理の次は、屋根の修理か?」



下で達がゴチャゴチャやっている間に、すでに銀時の後に立っていた





「節操のねェ野郎だ。一体何がしてーんだ、てめェは」




土方から“爆弾”という言葉が出た途端、銀時の表情が変わる
何か思い出したようだ





「爆弾!?あ・・・お前あん時の」





ここに来て、ようやく池田屋での出来事を思い出した






「やっと思い出したか」



少々呆れ気味な口調で、土方が言った





「あれ以来、どうにもお前のことがひっかかってた」




そう言いながら、ややきつめの坂になっている屋根を一歩登った






「あんな無茶する奴ァ、うちにもいないんでね」




“うち”というのは、もちろん真選組のこと



身を挺して爆弾ごと外に飛び出し、人から距離をおく
そのまま時間ギリギリを狙って、自分が逃げられないのも構わず被害の及ばぬ空中で爆破させる


8割がた死ぬであろうその状況から、この男は見事生還した



土方の頭の中では、その出来事が鮮明に甦っていた






「近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったが、てめーならありえない話でもねェ」




近藤の実力は、真選組でもトップクラス
武装警察というだけあって、そこら辺の侍では全く歯が立たない


こいつならと思うほど、銀時の行動は飛びぬけていた






「近藤さん?」




真選組すら忘れていた銀時に、近藤といってもわかる筈がない


そもそも、近藤は名乗っていない
名乗っていたとしても、銀時が覚えていることはまずない






「女とり合った仲なんだろ」




そういうと、沖田から借りた刀を銀時に投げ渡した

大して驚く様子もなく、銀時はそれを両手で受け取った





「そんなにイイ女なのか。俺にも紹介してくれよ」



冗談で土方が言う
近藤と違って、土方はそういう類にほとんど興味がない






それに対し銀時は、受け取った刀をまじまじと見つめて




「お前、あのゴリラの知り合いかよ」





近藤の第一印象をストレートに言った





「にしても、何の真似だこりゃ・・・」



わけが分からないと言いたげな表情で、土方のいる所に目をやる銀時





ところが、土方は既にその場所から銀時に急接近していた









刀同士がぶつかる特有の金属音が響く




「ぬをっ!!」





鞘のついたままの状態で辛うじて受け止める
だが、不意をつかれた銀時は、土方の勢いに押されて屋根に転がった




「あだっ!!あだっ!!あだっ!!」





声をあげ派手に転がりつつも、足に力を入れ勢いを殺し、屋根に踏みとどまる





「何しやがんだてめェ」



体勢を立て直した所で、銀時が口を開いた
先程までのやる気のない口調とは、明らかに違っていた






「ゴリラだろーがなァ、俺たちとっちゃ大事な大将なんだよ」




自分より低い位置にしゃがみこんでいる銀時に、土方がゆっくりと歩み寄る






「こいつ一本で一緒に真選組つくりあげてきた、俺の戦友なんだよ」




自分の前に刀を掲げる土方
土方のいたって真剣な表情に、ただの喧嘩好きでないことがうかがえた






「誰にも俺達の真選組は汚させねェ。その道遮るものがあるならばこいつで・・・・・・」



かすかに、柄を力強く握り直す音が聞こえた






「叩き斬るのみよォォ!!」





とても素早く、なおかつ力強い一撃が銀時を襲う



もろに受けては命にかかわると判断し、それを上回るスピードで一撃を避ける銀時
行き場をなくした切っ先は、瓦ごと屋根を粉砕した




もうもうと立ち込める砂煙


それに上手く紛れて、銀時が土方の背後を取った





「刃物プラプラふり回すんじゃねェェ!!」




土方の首あたりに、銀時のとび蹴りが決まる


対処しきれなかった土方は、前に蹴り飛ばされた
力が強かったのか、銀時から土方の顔が見える位置まで回転する





再び現れた土方の顔が、不意に笑った


それとほぼ同時に、土方の刀が円を描き銀時の肩を刀が斬りつけた





派手な音を立てながら、両者共同時に倒れる






「銀さーん。てめっ、遊んでたらギャラ払わねーぞ!!」






今の騒ぎを聞きつけ、反対側の屋根から別の声が聞こえてきた
恐らく、銀時に仕事を依頼した人物だろう

遊んでいると勘違いしているのは、こちら側の様子を確認していないため



かえって、そっちの方がいいのかもしれないが






「うるせェ、ハゲェェェ!!警察呼べ、警察!!」




斬られた肩を抑えながら、銀時が叫んだ



それを聞いた土方は





「俺が警察だよ」



ゆっくりと起き上がりながら言った





「あ・・・そうだった。・・・世も末だなオイ」


「ククク、そーだな」




目の前に対峙していても、相手が真選組ということを忘れる銀時

土方も自覚があるのか、銀時の言葉を認めた







・・・・・・なんだか読めねェ野郎だな





一通り言葉を交わし、土方はそう思った




近藤の時は汚い手を使ったのだが、銀時は全くその素振りさえ見せない
更に言えば、銀時は刀を一度も抜いていない


先ほどの銀時の攻撃にしたってそうだ

あのまま刀で攻撃していたら、対処できなかった土方は確実にやられていた






まさかコイツ、てめえが命狙われてるにも拘らず、俺を気づかってるってのか






土方が考えが少しばかりまとまったの時、銀時が初めて抜刀した

シャンと音を立てて、抜き身の刀があらわになる






フン・・・いよいよくるかよ




それを合図に、土方の下半身に力がこもる








命のやりとりといこうや!!






土方は銀時に向けて駆け出す
銀時は特に構えるわけでもなく、ただそれを見ていた





「うらアアアアア!!」



土方の刀が、すぐさま銀時を捉えた

先制攻撃を仕掛けたときよりも更に速く、刀が振り下ろされる







斬った!!





土方が勝利を確信した・・・・・・その時





銀時は、土方の真横にいた






布が、風に乗り宙を舞う
刀が捉えたのは、銀時の服だったのだ





確信した勝利が、負けに変わる



そんな土方に構わず、銀時は刀を振り下ろす―――――











カランと、乾いた音が響く


しかし、明らかに人を斬った音ではなかった





銀時は、土方の刀を斬ったのだ






「はァい、終了ォ」



驚く土方に、出血の止まらない肩を抑えながら、それだけ言った





「いだだ、おいハゲェェ!!俺ちょっと病院行ってくるわ!!」


「待てェ!!」




何事もなかったかのようにその場を去る銀時を、土方が呼び止める
納得がいかないのだろう






「・・・てめェ、情けでもかけたつもりか」




自分は殺す気だったのに、銀時は刀を折って戦えない状態にするだけに留まった


それが、納得いかないのだ






「情けだァ?そんなもん、お前にかけるぐらいならご飯にかけるわ」




ところが、銀時の返事はそっけない物だった
さらに、意味不明




「喧嘩ってのはよォ、何か護るためにやるもんだろうが。お前が真選組護ろうとしたようによ」




土方に背を向けたまま、銀時が話し出す


情けと感じたのは勘違いで、銀時にはそんなつもりは全くなかった






「・・・護るって、お前は何を護ったってんだ?」





相手を生かして、銀時には何のメリットもない


それでも銀時が護った物は、一体なんなのか?










「俺のルールだ」





かすかに振り向いて、答える


短い言葉だったが、土方を納得させるには十分だった






「じゃーな」





去っていく銀時を見送る土方からは、完全に戦意がなくなっていた














「・・・フフ、面白ェ人だ」




二人の様子を、三人はずっと見ていた

ようやくそれが終わって、一番に沖田が口を開いた





「俺も一戦交えたくなりましたぜ」



沖田に関しては、敵討ちとかではなく興味本位からきている





「ホント、面白そうだ。機会があったらやりたいな」




考えることは似たようなもので、も同じようなことを言った
理由も恐らく同じだろう






「やめとけ。お前らでもキツいぞ」




一度戦っている近藤は、いたって冷静な口調で二人を制した





「アイツは目の前で刃を合わせていても、全然別のところで勝手に戦ってるよーな男なんだよ」



卑怯な手は使われたが、近藤はそれなりの強さを感じていた





「勝ちも負けも、浄も不浄も越えたところでな」



自分に得があるかないかではなく、一番よい解決法を選ぶ
普通の人には真似できない考え方だった







「さてと・・・・・・。、トシ回収してきてくれ。帰るぞ」


「りょーかい」




近藤に言われ、は屋根から下りていく













地面に降り立った所へ、丁度ある人物が降りてきた
白い服には大量に血が染みこんでおり、深手を負っているのがよく分かる



土方と話し終わり、病院へ向かおうとしている銀時だ






「すんませんね、変なこと巻き込んじまって」





歩み寄りながら、は声をかけた

声の方に振り向いた銀時は、の服装を見て




「ん?・・・・・・あ。あいつの仲間か」




今度はしっかり気がついてくれた
先ほどと同じ、やる気のない口調だった






「仕掛けられても、悪ィが、これ以上は無理だからな」



どうやら、土方と同じ目的で声をかけたと思ったらしい
何も言っていないのに、そう切り出した





「俺ァ何もしませんよ。ほかの隊員はまだ殺気立ってるんで、襲われるかもしれませんが」




それを聞くと、銀時は「マジかよ」と呟く





「ま、うちのトップがやられたんです。誰も敵わないでしょうね」



一部始終しか見ていないが、誰も銀時に敵わないというのは目に見えていた






「隊員には俺達から説明しておきます。では、お仕事中に失礼しました」




これ以上手間を取らせるのはまずいと感じ、は土方の元へ向かおうと、梯子へ向かう
手をかけ、一段登ろうとした時





「オイ」



銀時に呼び止められた






「あ、使っちゃまずいですか?」



そういいながら、ゆっくり梯子から手を離した
仕方なく、別の所を登ろうとあたりをきょろきょろしていると




「そうじゃねえよ」



少し口調の変わった声で制された








「真選組に女がいるなんて知らなかったぜ」





銀時がそう言った途端、の表情が凍った

だが、すぐに元に戻り





「女性隊員の受付はしていません。侍は男だけ。そう上がうるさいからです」





ほとんど棒読みだった
何度も言っているからなのか、それとも何も感じていないのか、それは分からなかった



分かっているのは、がまともに答える気がないこと






「何言ってんだ。女だろ、お前」





そんなことも構わず、銀時はに問い続ける






「・・・・・・さァ、どうでしょうね」




あいまいに答えて、は梯子を上り始めた









「一つだけいえるのは」




半分くらい登った所で、ふと、その手を止める





「俺は、真選組の隊員ってことですね」




軽く会釈して、は屋根の上に登っていった















二人の戦った屋根には、しっかりとそのあとが残っていた

瓦の下の板が丸見えので、ところどころに亀裂も入っている







これ、後で請求されねえよな・・・・・・?




一瞬よぎった疑問を、慌てて頭から消す


それとほぼ同じ時





「ワリぃ近藤さん。俺も負けちまったよ」




その横に寝転んでいた土方が、静かに呟いた


が登ってきたことに、気付いていない






「負け宣言ですか?珍しい」



その声で、初めて土方はに気が付いた





か。どうした?」



大して驚きもせず、土方は起き上がった
それを確認すると




「帰りますよ。近藤さんも待ってます」




先に梯子へ歩いていく





「近藤さん、来てるのか」




それに着いて行く形で、土方も梯子へ向かった

しかし、一足先に歩いていたは、何故かそこで止まっていた






「土方さん。あの侍・・・・・・」



ボソッと、小さな声でが話し出す






「あいつか?わけの分からない奴だった」





そうじゃないと、は首を振る







「あんな人も、まだちゃんといるんですね。俺の事、一発でバレました」





感心するように言った




それを聞くと土方は





「気付けたのか。たいした野郎だ」



少しだけ驚いた





「まあ、そういう人間もたまにはいるだろ。気にすんな」




さらりと言うが、を気にかけているのが分かる






「そうですね・・・・・・。さ、帰りましょう」




土方は自分を呼ぶを見て




「わーってるっての」





それだけ答えた











その次の日、町中に張ってあった例の張り紙は、一枚もなくなっていた





あとがき
テストも終わってようやく続きが書けました!
勉強してたからといっても、内容はヘボいままです(泣
一体いつになったら、まともに書けるんですかねェ・・・・・・
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!!
2007.6.21 煉城瞳
/Silver Soul/