眼差しから、言葉から、一護の力が流れ込んでくるようだ










強くなったのだな・・・一護――――――・・・







〜BLEACH!!〜
第三十五話





ルキアの表情が、ようやく明るくなる

どうやら、一護の言葉を信じてくれる気になったようだ






だが、問題はこれからだ


もう大丈夫。そうは思ったが、ここから逃げ切らなければ意味が無い
逃げ切れないわけじゃない。だが、全員助け出しながら逃げ切るとなると、かなり難しい




ルキアに言われたとおりだ。これからどうする・・・・・・?









「・・・・・・オイ、一護・・・」



みんなと合流するのなら、今すぐここから逃げなければならない

戦闘は避けたいところだが、恐らくそれは無理
ならば、俺か一護のどちらかがルキアをここから連れ出す必要がある




それを一護に言おうとした・・・・・・その時





「ぐあッ!?」



突然、下で誰かの悲鳴が上がる




「な・・・何だ!?」





一人の悲鳴のあとに、数人の悲鳴
それと一緒に、刀と刀がぶつかり合うような音も聞こえてきた




そして、不意にその音が全てやんだ時、一人の人物が双極の丘に足を踏み入れた






「・・・お前は・・・!」



俺達の視線の先にいるのは、赤い髪の死神・・・・・・




「恋次!!!」


それは紛れもなく、俺達より先にここへ向かった恋次だった





「ルキア!!!」



ルキアの声が聞こえたらしく、こちらを見ながら恋次も叫んだ









「一護。俺の考えてること、分かるか?」


「・・・・・・ああ。多分俺と一緒だ」





ルキアと恋次が話している中、俺は一護に話しかける
もしかしたら、ここから上手く逃げ切ることができるかもしれない・・・・・・




「良かった!生きておったのだな、恋次!!良かっ・・・」

「恋次!」


今度は、一護がルキアの言葉をさえぎりながら恋次を呼んだ



そして、返事も待たずにルキアを腰あたりを持って上へ持ち上げる





「ん?」


「あ!?」



何が始まるのか分からない二人は、一護に何も聞き返さなかった



そして、二人が理解しないうちに、一護はルキアをボールを投げるかのように振りかぶる形をとった





「お・・・おい一護っ!?何をする気だ貴様!?」


状況が飲み込めないのか、自分の予感を信じたくないのか、ルキアが慌てて一護に声をかける
その様子を下から見ていた恋次も、やがて一つの考えにたどり着いた




「待てよコラ・・・・・・てめえまさか・・・」




その“まさか”だ





「受け取れっ!!!」


そう叫ぶと、一護は恋次に向かってルキアを投げた





「きゃあああああああああ!!!」



突然の出来事に、ルキアが悲鳴をあげる。突然じゃなくてもこうなっただろうけど





「馬鹿野郎―――――!!!!」



一護の大胆な行動に声を張り上げる恋次

それでも、自分の方に飛んでくるルキアを受け止めるべく、下半身に力を込めた



だが、一護の力が予想以上に強かったようで・・・・・・結果、10メートルほど後ろに転がることになった





「・・・ば・・・莫迦者!!一護、貴様あ!!!」


転がりはしたものの、恋次のキャッチは成功したらしい
ベルト無しでジェットコースターに乗ったような気分を味わったルキアの文句が聞こえてきた



「落としたらどうすんだこの野郎!!!」


それに続き、恋次の声も聞こえてくる






「連れてけ!!!」


ルキア達の文句に反論はせず、一護が叫んだ



「な・・・」


若干、まだルキアを投げた理由が分かっていない恋次は、何も言えなかった
だが、それを説明している暇もない




「ボーッとしてんな!!さっさと連れてけよ!!」



刀を“行け”というように振りながら





「てめーの仕事だ!死んでも放すなよ!!」



そう叫んだ


恋次は、その一言で自分のやるべきことを理解したようで、ルキアの服を強く握り締めると刀片手に走り出した




「れ・・・恋次!!」


一護の身を案じたのか、ルキアは恋次の名を呼ぶ
だが、恋次は止まる気配もなく、その後姿はどんどん小さくなっていく










・・・・・・」


その姿を見送りながら、今度は一護が俺を呼んだ






「お前、恋次と一緒に行ってくれねえか?」














「いいよ」


こう言うのに少し時間がかかったが、俺は一護の考えをそのまま受け入れることにした




恋次は俺達より先に出た。なのに、到着は遅かった

途中何があったのかはわからないが、霊圧が弱くなっていたのは感じていた




考えられるのは、途中、誰かと戦ったということ
恐らく、隊長のうちの誰かと





「何を呆けておるのだうつけ共!!」



俺と一護の会話に割り込むように、下から砕蜂の声が聞こえた




「追え!!!副隊長全員でだ!!」









追え・・・・・・ね



・・・・・・それは困るな






「さて、一つ仕事が増えたな、一護」



一護は返事を返さなかったが、俺の言葉が終わったと同時に、俺達の姿は処刑台から消えていた








あたりの風景ががらりと変わり、一瞬の間に俺と一護は副隊長3人の前に躍り出た


一瞬の出来事に目を見開く副隊長達




一護は刀を足元に着き突き刺し、鋭い目つきで3人を見た





「邪魔だァ!!!」


一護に対抗するかのように一人が叫び、それが合図になったか、3人がそれぞれ戦闘態勢に入った







「奔れ!!『凍雲』!!!」




「穿て!!『厳霊丸』!!!」




「打っ潰せ!!『五形頭』!!!」





各々の斬魄刀を解放し、一斉にこちらに攻め込んで・・・・・・こようとした







だが、一護の実力の方が上だったようだ


一人の副隊長の前に現れたかと思うと、鋭い攻撃が斬魄刀を貫いた
それでも勢いはと衰えず、相手はそのまま吹っ飛ぶ




突然の出来事に残りの二人は驚くが、一護はその隙も与えない


今度は、一人の懐に飛び込むと手首を掴み、顔に向かって下から垂直に手を動かす

その力はとても強く、当たったと同時にその体は宙を舞う





全て、素手だった

斬魄刀を使わず、副隊長を全て退ける




一護の力は、もはや隊長にも並ぶのか―――――








そんなことを考えているうちに、一護は最後の一人を倒した



全て、一瞬の出来事だった


一瞬で副隊長3人を退けたが、一護はそれで動きを止めなかった





今まで使わなかった斬魄刀に手を伸ばし、目にも留まらぬ速さで引き抜く



その勢いで後に振り返り、背後からの斬撃を受け止めた







「・・・見えてるって言ったろ、朽木白哉!」





朽木隊長に向かって、一護は言った








「・・・何故だ」



キリキリと刀同士が擦れ合う音がする

一護も朽木隊長も、一歩も譲らぬまま、朽木隊長が呟いた






「何故貴様は・・・何度もルキアを、助けようとする・・・!」




いつもよりも、いっそう鋭い目をした朽木隊長


直接一護を見ているのだが、どうも俺にも同じことを言っているみたいだった








「・・・こっちが訊きてえよ」



一護が反論する




「あんたはルキアの兄貴だろ。なんであんたはルキアを助けねえんだ!」





一護らしい質問だった


一護だけじゃない。ここへきた者なら、みんなが思う考えだった









・・・・・・違うんだよ、一護





一護は間違ってない。でも・・・・・・違うんだよ、一護








「・・・下らぬ問いだ」



感情を全く表に出さず、朽木隊長は冷たく言い放った





「その答えを貴様如きが知ったところで、到底理解などできまい」




隊長の言う通りだ。一護は理解できない。いや、理解しないだろう
それは、顔にも出てきている






「・・・どうやら、問答は無益なようだ」




一護の様子を見た朽木隊長も、そのことを悟った









「行くぞ」



その一言をきっかけに、双極の丘一帯の霊圧が急上昇した










霊圧の上昇に比例して、二人は柄を握る力を強めた


刀の押し合いで、混戦状態が続くかと思いきや、一護が朽木隊長の刀を振り払った
その反動で、二人の距離が一気に離れる






「・・・最早、私のとる道は一つ」



そう言い始めると、朽木隊長は突然構えを解く





「黒崎一護、貴様を切る。そして、ルキアをもう一度、次は私の手で処刑する」










自分で妹を処刑する。そう告げた



冷たく、あっさりと







「・・・させねえさ・・・・・・・・・その為に来た」



天踏絢の紐を解きながら、一護は言った








「一護・・・・・・」



そんな一護に、俺は一言いっとかなきゃいけない





「何だ?」







「天踏絢返せ」



まっすぐ手を差し出した







「・・・いや・・・・・・なんか他に言うことねーのか・・・・・・?」




俺の顔と、差し出した手を交互に見ながら、一護が言った
そんなことをしながらでも、天踏絢は返してくれた







「ないよ。勝つんだろ?だったら何も言うことねえじゃねえか」





それを受け取り、一護と同じように羽織りながら答えた






一護が負けるとは、さらさら思っていない


だから、不安になることはない




ここで別れても、また会えるという確信。それを一護から感じたから、何も恐れることはない













「それじゃ・・・・・・いくぜ」






「・・・ああ・・・・・・・・・」






一護と最後の言葉を交わし、俺はその場から走り去った







死ぬな・・・・・・一護






そう思ったと同時に、後で二人の霊圧がぶつかった

















ちくしょう・・・・・・





ルキアを抱え、双極の丘を出た恋次はその場に立ち尽くしていた



副隊長達の追撃を一護とが止めたおかげで、ここまで逃げてこれたが・・・・・・・


そこから先へ進めなかった




騒ぎを聞きつけ、持ち場を守っていた隊士達が、一斉にこの双極の丘へ集まってきたのだ




数時間前、朽木白哉と戦い、深手を負った恋次一人ではどうにもならない人数だった








―――てめーの仕事だ!死んでも放すなよ!!―――




一護の言葉が、今でも頭に響いている





放したくねえのは山々だが・・・・・・今の俺の残りの力じゃ、どうにもなんねえぞ・・・・・・




体力も霊力も、残りは僅か
この大群を上手く交わすことなど・・・・・・不可能に近かった









ここで立ち尽くして、無抵抗で捕まるか


いくら深手を負おうが、刀片手に大群に突っ込んで僅かな可能性にかけるか






恋次の中で、答えは決まった






「ルキア・・・・・・」



ルキアは、不安そうな顔で恋次を見ていた
そんなルキアに向かって、恋次は、自分の答えを告げる





「俺の事・・・・・・放すんじゃねえぞ」




ルキアには、恋次が刀を強く握り締めるのが分かった







ルキアを・・・・・・助けたい






恋次の覚悟が決まった・・・・・・そのときだった









目の前を突然、黒い炎が包む・・・・・・





「恋次!!」




それと同時に聞こえた、ある人物の声







「あ、あんた・・・・・・なんでここに・・・?」




双極の丘で別れたはずの、だった














「話は後。後から追っ手が来る前に・・・・・・抜けるぜ、ここ」



かなり驚いた様子の恋次に、俺は言った

説明はあとでもできる。ここから抜け出すのは、後からじゃできない



優先順位は・・・・・・言うまでもない






「下がってな。巻き添えくらいたくなかったらな」




斬魄刀を構えた俺を見て、恋次は無言で後ろへ下がった














「・・・さぁて・・・・・・・・・」




恋次が後ろへ下がったのを確認し、俺は呟く








「一暴れすっかな」





ここでやる必要はないが・・・・・・今まで全部一護に譲ってきた。少しくらいはいいだろう








手に持つ刀に霊力を込める



目の前にいる大勢の敵に、集中する






そして・・・・・・













「焼き尽せ・・・・・・『黒炎龍』」







こいつの名前を呼ぶ








俺の言葉と共に、斬魄刀・・・・・・黒炎龍は、元の日本刀から姿を変えた



とは言っても、恋次や一角達の様な、目に見えた変化はない




名前の通り、刀身から柄まで、真っ黒
細かいことを言えば、刀身の長さが少しだけ長くなっている



それだけ






外見的特徴はそんな物だが、能力はまだある



こいつの能力は・・・・・・









「あいつら全員、俺達に着いてこれなくするだけでいい。気絶させれば十分だ」




姿はないが、手元の刀に俺は言う





「・・・・・・行くぜ、黒炎龍」







そう呟いたと同時に俺は地面を蹴り、敵の軍団の上空へ飛び上がった
下の連中は、何も仕掛けてこない


ただ、俺が何をするのか見ているだけ






敵の大体中央のあたりで、俺は進むのをやめ、宙に立つ。目的通りの位置だ







刀をしっかり握り、今度は地面めがけて垂直に宙を蹴る


それと同時に俺の姿は消え、皆が気がついたときには、俺は地面に降り立っていた









「悪ィな。かまってらんねえんだ」





手に握っていた刀を両手で持ち、地面に突きつける







「吹き飛べ」









俺の言葉に反応して、突如、地面から火柱が飛び出してきた



中心は、俺のいるところ
そこから、地面から噴出した炎が波のように周りの死神たちを襲う









数秒も経たないうちに、立っているのは俺と恋次。それとルキアだけになっていた













「いこっか、お二人さん」




何事もなかったかのように、俺は、死神達が倒れている中央で言った







あとがき
というわけで、斬魄刀初登場です!
詳しい能力については、後々に本人から説明があると思います
別に考えてないからとかそういうんじゃないです!念のため
では、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!!
2007.5.24 煉城瞳
/〜BLEACH!!〜/