―――あんたは、何でルキアを助けたいんだ?―――






恋次の言葉が、まだ耳に残っている




今まで考えたこともなかった・・・・・・俺がルキアを助ける理由
ないわけじゃなかった。でも、それがどういうものなのかはわかっていなかった



恋次に言われて初めてわかったといっても、間違いじゃないだろう




間違いじゃない・・・・・・でも、なんだか変だった




あの時より前にルキアを見ていた気もするし、逆に会ったことはなかった気もする
朽木隊長と行動している時間は多かったけど、ルキアにあった記憶もほとんどない



要するに、そこらへんの記憶があやふやだった




ルキアを助けたい理由になる記憶なのに、忘れてるわけはない
だけど、今まで忘れていた


現世での幼いころがうろ覚えだったのと同じ・・・・・・いや、それ以上に、尸魂界での昔が思い出せない




記憶は全て戻ったはず


俺が勝手に指示して消させたけど、ちゃんと戻ったはずだ
でも、夜一様に拾われて修行したこと。そこまでは、全て家の者に聞いた話。俺の記憶じゃない


俺自身は、幼い頃の出来事はほとんど思い出せない



過ごした時間が長いから憶えていないのかもしれないが、会った人ならどうでもいい人以外は忘れない
なのに・・・・・・なんでだ?






俺の記憶は・・・・・・・・・戻ってない?














まぁいいや


今はルキアの方が大事だ
俺のことは、全部が済んだらでいい




そう思って一護に視線を戻すと、何故か本体が見当たらなかった


どれどころか、一護は手に持っている斬月を手放し、その場に倒れてしまった
カランと音を立てて、斬月も一緒に倒れる




どうやら、修行は無事に終わったようだ








「・・・・・・おわったか・・・」

そこへ歩み寄り、上から顔を覗き込む





「・・・・・・・・・・・・」


かすかな声で、一護は俺の名を呼んだ



「・・・・・・待っててくれたのか?」

「ああ、待ってたさ。そうじゃなきゃ・・・・・・意味ねえだろ?」



そういって、微かに笑いを浮かべる

それに答えるかのように、一護は体を起こし、斬月を拾い上げた




「・・・・・・そうか・・・サンキューな、。遅くなっちまったけどな」



そうだよ・・・遅いぜ、一護

でも、これでやっと・・・・・・









「・・・・・・ようやく揃ったようじゃな」





その声に振り向くと、夜一様がこちらへ向かって歩み寄ってきていた



「もう後戻りはできぬ。時間も残されてはおらぬ。・・・・・・・・・行くぞ!!」


「・・・・・・はい」










最後の決戦が・・・・・・始まる









〜BLEACH!!〜
第三十三話



「・・・・・・で、行くぞって言ってた本人が何でここにいねえんだ?」


数十時間ぶりに外へでた俺と一護は、走って双極の丘へと向かっていた
だが、一護の言うとおり、そこに夜一様の姿はなかった



「俺にもよくわかんねえ。『やることがある』って言って、あそこを出る前にいなくなっちゃった」


あれ?俺たちが出たときはまだいたっけ・・・・・・?
ダメだ、思い出せんわ



「そうか・・・・・・・・・何だかんだで、夜一さんってよくわかんねえ人だな」





一護の言うとおりだよ。夜一様が何をしたいのか、俺にもわかんねえ
まあ、一護がわからねえことと俺がわからねえことは、ちょっと違うんだけどな



「でもな、一護。夜一様がやることがあるって言ったら、それは絶対ホントの事だぜ?」
「・・・・・・・・・そう・・・・・・なのか?」




「・・・・・・たぶん」


ああは言ったが、自身はないんだよね・・・・・・









夜一様不在のまま、俺たちは双極に向けて走り続けた

















双極の丘へ続く唯一の道には、数分もかからずに到着した


よくよく考えりゃ、あの場所は双極の丘に直に掘られたところなので、少し走ればすぐに到着する
まぁ、他の死神に遭遇しなければの話だが


しかし、処刑当日で旅禍も捕まっていないというのに、幸運にも俺たちは死神に遭遇しなかった
だが逆に、現在も各自の持ち場についているはずの死神に一人も遭遇しなかったことは気になる




やっぱり、この先には何かしらあるみたいだ
それがいいことなのか、悪いことなのか・・・・・・今はわからない


だけど、この遥か上空まで続くとんでもない長さの坂道の先には・・・・・・ルキアがいる
この道を抜けた先には・・・・・・ルキアがいる






「なぁ、。ここを・・・・・・登るのか?」

横にいる一護が、先へ続く道を指差しながら呟く



「うん。ここを通らないと、双極にはいけないよ」





「・・・・・・・・・ここをか?」


何故か“ここを”を強調して、一護が言う

依然、道を指差して





あ・・・・・・いけね、これ使うんだった


「・・・・・・安心しな。登らなくてもいける方法はある」



そう言うと、ここに来るまでずっと身に着けていたマントのような物を首からはずす
厚手の生地に、四楓院家の家紋が彫られた物がついている


忘れないようにって身に着けてたのに・・・・・・俺の馬鹿!!



「なんだ・・・・・・それ?」
「“天踏絢”っていって、空を飛ぶためには欠かせない道具だ。これは四楓院家に代々伝わる品の一つだよ」



いくら死神といえど、自由自在に空を飛ぶことはできない。斬魄刀の能力は別だが
そして、ルキアを助けるには、空を飛ばなければならない。だから、夜一様がこれを俺に渡した





「夜一様から預かった。これは、お前が使え」

そういって、一護に天踏絢を差し出した
無言で一護が受け取ったのを確認すると、今度は、腰から下げていたひも状の道具を取り出す



「そいつは、この道具より霊力の消費が少ないんだ」

取り出したのは、一護が懺罪宮へ行くのに使ったあの道具だった
ちなみに、これも四楓院家に伝わるかなり凄い道具。余程の事態でなけりゃ、持ち出すことすら許されない



「これから先は、霊力の残量との勝負。お前は朽木隊長とやるんだろ?霊力はとっとかないとな」


霊力が無いんだったら、卍解があっても意味はない。すぐ消滅しちまう
それに、これの方が走るより移動スピードが速い



「じゃあ、なんで初めから使わなかったんだ?あそこから使えば真上なんだから近かったんじゃねえのか?」


「あの位置から登ると、隊長達の正面に出ちまうんだ」


双極使用の処刑には、強制ではないが各隊の隊長・副隊長が付くことになっていると夜一様から聞いた
しかも、コレが厄介なことに処刑台のすぐ近くに陣取ってるらしい

簡単な話が、隊長達に気が付かれる前にルキアの元へ着かないと、襲撃を受けてしまうということだ
霊圧の消費率も考えると、死角になるこの場所まで走ってから登ったほうが効率がいい



「わかる?ここは、奇襲をかけるには絶好の場所なんだよ。それに・・・・・・」

「それに?」



今まで、この道具を預かったことを忘れてたとは・・・・・・言えないよな


「なんでもない!!」


そこまでいい終わると、左手に持っている道具に霊圧を込める
それと同時に道具は形を変え、大きな翼のような物が付いた形になった





「さ、話してる暇なんかないよ。早く行かないと、もうすぐ正午・・・・・・」











ドンッ!!!







突然響いた、何か大きな音に、俺の声はかき消された




「・・・・・・おい、!!あれ!!」


一護の視線の先には・・・・・・今まで感じたことのない強大な力を帯びた、双極があった
そして、その磔架に、微かだが人影のようなものが見える





あれは・・・・・・まさか・・・!



「一護!!はやく天踏絢を着けろ!!!処刑が始まった!!」


やっぱり、今あんな話をするんじゃなかった
もともと切羽詰ってたのに、こんな処で止まってちゃいけなかったんだ

ここまできて、間に合いませんでしたじゃすまされねえぞ・・・・・・・・・




「着けたぞ!!どうすりゃいいんだ!?」
「霊圧を込めるんだ!空鶴さんの時みたいな力加減は要らない!!おもいっきり解放しろ!!」




そういい終わるや否や、一護の霊圧が膨れ上がった
そして、その瞬間・・・・・・


「うおっ!?」

一護の体は中へ浮かび上がった



「よし、上出来。・・・行くぞ!!」
「おう!!」





双極が解放されたってことは、暗殺犯の思惑通りにことが進んじまってるってことだ


しかも、まだルキアを助け出せてねえ

ルキアを助けられたって瀞霊廷がなくなっちまったら意味ねえ
逆に、瀞霊廷が残ってもルキアを助けられなきゃ意味ねえ




畜生・・・・・・・・・まだ何も起こるんじゃねえぞ!!








空気を切って、俺たちは空を翔けた


双極を目指して・・・・・・



















――双極の丘――





予告された時刻と寸分のくるいもなく、ルキアの処刑は始まっていた



双極の丘には、一番隊・二番隊・四番隊・六番隊・八番隊だけがそろっている
六番隊に関しては、修行の場を立ち去ったはずの恋次の姿はなかった


そして、ルキアは既に処刑台に上がり、徐々に上へと登っている





準備は全て、整いつつあった




あとは、双極が解放されるだけ

双極が解放されれば、処刑は終わる






だが、一護とはまだこの場にはいなかった











ルキアの上昇もついに止まり、目の前には、双極の矛が日差しを浴びて光っている


そして、一際強い光を放ったかと思った瞬間・・・・・・






矛を取り込むかのように、炎が噴出し始めた


「んな・・・なんだ!?何が起きてんだこりゃあ!?」



ルキアの遥か下にいる死神達から、驚嘆の声が上がる


そのうち、矛は空中へ浮かび上がり、そのまま刃先をルキアに合わせて傾いた
炎はだんだん大きくなり、徐々にその姿を変え始める





「矛を・・・」
「炎が包んで・・・形を変えていく・・・!」



「・・・こいつは驚いたね・・・」









やがて炎は動きを止め、とんでもない大きさの鳥の形になった


双極の丘に集まった者の中で、この双極の矛の真の姿を見た者は少ない
たった一人の死神を処刑するためだけにしか、姿を現さないからだ








だが、下で死神たちが驚いているのをよそに、ルキアはいつも以上に落ち着いていた

突如目の前に現れた、自分を殺す者を目の当たりにしても、ルキアが恐怖に駆られることはなかった







・・・・・・恐ろしくはない・・・・・・私は、よく生かされた




そう思ったルキアの頭の中を、今まで出会った人たちの姿がよぎる









恋次たちと出会い




兄様に拾われ




海燕殿に導かれ・・・・・・・・・そして・・・・・・












一護と・・・・・・に救われた

















つらくはない




悲しくはない




悔いはない




心も・・・・・・残してはいない











ありがとう




ありがとう




ありがとう




ありがとう












現世と尸魂界、双方でであった者たちの姿が浮かび、消えていく




そして、最後に何故か、一護の姿が浮かんだ
そのとたん、ルキアの頬を涙が伝う



「さよなら」






そうルキアが呟いたと同時に、矛の本体はルキアめがけて突っ込んだ
反射的に、ルキアは目をつぶる







だから、ルキアは気がつかなかった

矛とルキアの間に、二つの人影が入り込んだことに・・・・・・





























炎が退き、ルキアは、まだ自分が生きていることに気がついた



恐る恐る目を開くと、矛の本体と自分の間に、何かがいるのが見える


見覚えのある姿。憶えのある霊圧
そして何より、他の者とは違う・・・・・・オレンジの髪と、長髪の人物




一人は天踏絢をはためかせ、もう一人はしゃがみこんで刀を構えている
二人に共通するのは、まっすぐこちらを見ているということ


身の丈程もある大刀と、強大な霊力を放ち、矛を抑える二人
何度突き放しても、自分を救うと言い張った二人・・・・・・


ルキアの中に、当てはまる人物は他にいなかった














「よお」


「おっす」






強く耳に残っている、この二つの声・・・・・・











「・・・い・・・・・・・・・・・・一護・・・・・・・・・・・・!」



それは、到着の遅れた、一護とだった





あとがき
2007年初小説です
自分で言うのもなんですが・・・・・・・・・長引かせすぎじゃねーの、コレ?

が、がんばって次はルキア助けさせます!
そろそろヒロインの斬魄刀も出さないとな・・・・・・

とりあえず頑張ります

と、いうわけで、ここまで読んでくださりありがとうございます!!続きます!!きっと
2007.1.6 煉城瞳
/〜BLEACH!!〜/