〜BLEACH!!〜
第三十一話

建物の上から、朝日で照らされた双極が見えてきた


さっきまではなかったはずの太陽を背に、ひたすら双極の丘に向かって走る
日が昇ったということは、そろそろ修行が始まってしまう


一刻の猶予もないというのに・・・・・・ギンの野郎!次会ったら覚えとけよ!!
                                             ・・・・・・と、心の中で叫んだ


・・・まあ、それはおいといて・・・・・・そんな双極の丘のせり出した地面に、誰かが座っているのが見える
あ、あれはもしや・・・・・・


その人の後ろに即座に降り立つ

か」
振り向かないまま、その人は俺の名を呼ぶ

「はっ、只今戻りました、夜一様」
こんな場所に堂々と座っていられるのは、夜一様ぐらいだ
改めて、別の意味で凄いと思った



「・・・・・・こんな敵の目が届きやすい場所に座らなくたっていいじゃないんですか?」
「いいではないか。堂々と座って、何が悪い」
「・・・・・・・・・」




しばらくの沈黙




「そんなことより・・・・・・ずいぶんと遅かったのう」

呟くように夜一様が言う
「いきなり飛び出したと思えば、夜が明けておるというのに戻らぬではないか」
依然夜一様は、俺に背を向けたまま話しかけてくる

「申し訳ありません。途中でトラブルが発生いたしまして、戻ってくるのに少々時間がかかりました」
少々どころじゃないけどな

「トラブルか・・・・・・こんなに時間がかかったのだ、何もないわけがないな」

何か夜一様にこういうこと言われると、どーしても、親に怒られてる気分になる・・・・・・ん?



・・・親・・・?

俺、親に怒られたことあったっけ・・・・・・?




・・・・・・ないな


俺に親はいない
現世の親はいたけど、その人たちとは何の関係もないから、親に怒られたとはいえない

これが怒られてる気分じゃないとすると、本当の怒られてる気分があるのか?





・・・・・・わからない。いや、わからなくていい


そんなのがわかったら、俺の中に、余計な何かができてしまう気がする
いままで、親なんて必要なかった。これから先も必要ない。必要とするつもりはない

だったら、わからなくてもいい。親はいなくとも、俺には夜一様がいる。それだけで十分だ



「・・・どうした?」
突然黙ってしまった俺を、夜一様が覗き込む

「へ?あ、いえ・・・・・・何でもないです!」
慌てて弁明

つーか、なんで突然こんなこと考えたんだ?わけわかんねー・・・・・・


「ならよいが・・・・・・お主のことだ。大方、何か重要な情報でも持ってきたのだろう」
すげー・・・・・・お見通しじゃん


「とりあえず、遅くなった理由から説明します・・・」





日番谷隊長と乱菊の元から逃走した俺は、夜一様のところへ急いでいた


走っている途中、何度も三番隊舎前での出来事が頭をよぎったが、どれもよく考えられなかった
処刑の裏・暗殺・手紙の改竄・・・・・・いろいろありすぎて、頭の整理が付いていなかったのかもしれない



それだけならよかったのだが・・・・・・



走り出してまだ10分程の時、急に朝日が昇り始めた
地上に出たときから時間はわからなかったが・・・・・・深夜だったんだな、きっと。だから帰る途中で夜明けに・・・・・・

実際、双極の丘に着く前に、朝日は完全に昇りきった
「くっそぉ、ギンの野郎・・・・・・次会ったら覚えとけよ・・・!」

文句を言いつつ、目にも留まらぬスピードで駆け抜け続けたのだった




「・・・・・・時間の感覚がわからないのはいつもの事じゃが・・・今回はまた酷いのう」
ま、まったくもってその通りです・・・・・・
「で、隊長格の所になど出向いて、何をしていたんじゃ?」

早々、そっちが本題だった
「向かったのは三番隊舎。そこには日番谷冬獅郎・市丸ギン・雛森桃の三名がいました・・・・・・」




そこで藍染隊長が殺された事を知り、隊長が残した手紙には、犯人は日番谷冬獅郎と記されていた


犯人の目的は、処刑によって解放される双極の強大な力を奪い、尸魂界を破滅させるということ

だが、その手紙には矛盾点が多かった。しかし桃は、それにも気が付かずに日番谷隊長と戦ってしまった
どうもおかしい。そう思った俺は、この手紙が改竄された可能性に気が付いた

とっさに割って入って桃を止め、今度は、日番谷隊長とギンが戦い始めた

そして・・・・・・ギンは隙をついて桃を殺そうとした
途中から乱菊が合流して、俺と一緒に桃を助けたが・・・・・・



ギンは姿を消した。桃を殺そうとしたのに・・・・・・桃の心配をしながら


そして俺も、その場から逃走した




俺が話せる全てを話した

俺は、日番谷隊長は犯人じゃないと思う。だが、真実はわからない
今のを聞いて夜一様はどう思うだろうか?

「・・・そうか、あやつが・・・」
やっぱり、夜一様も知らなかったんだ。藍染隊長が殺されたこと

「その手紙には、ルキアの処刑は何者かに仕組まれた・・・と、書いてあったのじゃな?」


静かにうなずく


「・・・・・・ならば話が早い。ルキア救出には、その真犯人と戦わなければなるまい」
確かに。ルキアの処刑が目的なら、俺たちの邪魔をしてくるのは目に見えてる

「敵が他にもいるとわかった以上、一護の卍解習得は必須となった。今すべきことは、一護の修行じゃ。他に必要な物はない」
・・・・・・そっか。そうだよな

手紙の改竄と、犯人が誰かを考えるのに頭がいっぱいで、何も考えてなかった
やっぱり夜一様は凄い。こっちを向いてないが、まったく動揺してないってわかる

「では・・・・・・」
「ああ、この件に関しては白紙じゃ。いずれ、関わらなければならなくなるときまで・・・な」
関わらなければならない時・・・・・・処刑の日

その日までに俺たちは、卍解を習得しなければならない

いいぜ・・・・・・やってやろうじゃねえか!!

「了解しました。この件について、一護に知らせましょうか・・・・・・?」
ルキアを救出するためには、他にも敵がいるということを知っていたほうが、修行に取り組みやすい気もする


「いや、一護には知らせるな」

静かに夜一様が言い放つ
な、何で!?

「あくまで目的はルキア救出。ここでそのようなことを知らせれば、一護の性格上、目的が入れ替わってしまうじゃろう?」
・・・それもそうだ

一護は、ルキアを助けるために修行をしているのであって、裏で糸を引く人物を倒すためにやってはいない
そこへそんな情報を入れたら、ルキア救出のための修行ではなくなってしまうだろう
・・・岩鷲のときが、いい例だ

「そして・・・お主もそれは同じじゃ、
へ?俺?
「今は何もするな。決して犯人を捜そうと思ってはならぬ。これは命令じゃ」

命令・・・・・・

夜一様が俺に命令する時は、それなりの理由があるときだけ
俺は、この件に関わらない方がいいってわけか

「わかりました・・・」
いずれ関わらなければならないときが来るって夜一様は言った

なら、その時まで待てばいいだけの話
何が出てきたって、勝てばいいんだ

「・・・夜が明けてから、しばらく時間がたっておる。今日の修行に移る。中へ行くぞ」
その場に、夜一様が立ち上がる
「はい!」

俺の返事を聞いて、先立って歩き始めた夜一様の後ろで、双極を見上げる
聳え立つ巨大な矛・・・罪人を殺すためだけの道具だ

「待ってろよ・・・・・・強くなって、絶対行くから」

誰もいない双極に向かって、呟いた








ギンッ!!ガンッ!!バキンッ!!

岩が砕け・刀がぶつかり合い・地面の上を滑る音がよく聞こえる
目の前では、一護が刀を持ち、ひたすら斬月に向かっていっている

修行の内容はまったく変わらない。一対一で、斬月と戦う
昨日と違うのは、刀の折れる回数と、戦い方だ。明らかに変化している

だが、それほど霊力が向上していないのは、気のせいだろうか・・・・・・?


「・・・夜一様」
横にいる夜一様を呼ぶ

「一護は・・・・・・本当に強くなっているんでしょうか?」




「・・・・・・どういう意味じゃ?」


少し、間をおいてから夜一様が言う

「確かに、一護は一日で急成長しました。でも・・・・・・」
「霊圧がほとんど変化してない・・・か。まあ、誰だって思うじゃろうな」

お、思うんだったらなおさら!!こんな修行でいいわけ!?・・・・・・いや、いいんですか!?

「・・・・・・安心せい。まったく霊圧が変化して無いわけではない。これなら卍解も習得できるじゃろう・・・・・・」
なんだ。心配のしすぎか・・・・・・

「多分な」


・・・・・・たぶんなんだ


「それはそうと。おぬし、さっきから何か感じないか?」
腕を組んだまま、今度は夜一様が質問してくる

「いえ、まったく。大体俺、そういうことは苦手なんですよ。霊圧探査なんか、無能に近い・・・・・・え?」
途中で言葉を止める


そうだ。俺は、霊圧探査なんか得意じゃない

じゃあ何で、夜一様も一護も感じ取れない霊圧を俺が感じ取れたんだ?
俺にしか感じられない霊圧・・・・・・いや、霊圧じゃないのかもしれない。それを感じた先には、ルキアの処刑についての情報があった

・・・・・・偶然にしては、出来すぎている・・・



「・・・・・・俺は、霊圧探査は不得意です。だからなにも感じていません」

今、これは何の関係も無い話。口にする必要は無い
夜一様に言われたんだ、犯人を捜すなって。だから、今は考えない

「そうか・・・・・・。何か、ここに近づいておる気がするのじゃが・・・・・・」
近づいてる?死神ってことか?
「何かはわからぬが、不吉な予感がする。不吉な何かが、ここへ近づいておる・・・・・・そんな気がするんじゃ」

不吉って・・・・・・困るな。夜一様の勘って、大体当たるし・・・・・・


そう思ったその時・・・・・・




ドンッ!!!!!!




突然入り口が爆発し、何かが落ちてきた
な、なんだ!?

「・・・こんな処潜って何やってんのかと思ったら・・・」

沸き立つ砂煙の中から、聞き覚えのある声がする
だが、声だけでは誰かまではわからない

とりあえずここは・・・・・・


「何者!!!」
斬魄刀の柄に手をかけながら、砂煙に向かって叫ぶ
警戒してるとなれば、敵なら何らかの行動を起こすはず・・・・・・

「・・・・・・おいおい、いきなりそれかよ。あんた、本当に人の事忘れやすいな」

・・・・・・何も仕掛けてこない

一応敵ではなさそうだ。敵意を感じない。・・・・・・好意も感じないが
ってか、忘れやすいって・・・・・・認識のある奴か?

「なんだ・・・・・・?そいつは・・・てめえの斬魄刀の本体か?」
敵ではないが、仲間でもないようだな

「隠れてこそこそ卍解の修行か・・・面白そうなことやってんじゃねえか・・・」
砂煙が徐々に晴れ、話している人物の姿が、次第に見えてくる


・・・・・・こいつは・・・・・・!



「俺もまぜろよ」







「・・・・・・恋次・・・!!!」

蛇尾丸を肩に担いだ、阿散井恋次だった


「“何で、てめえがこんな処に?”。そう言いたげなツラしてるな」
そりゃもう。ここに来る理由なんて、そうそう無いんだから

「何、大した理由じゃねえ」

そういいながら、刀も構えないまま、こちらへ歩み寄ってくる


・・・・・・嫌な予感がする。敵じゃないとわかっても・・・・・・夜一様の言うとおりだ
不吉な何かを・・・・・・こいつがもってる


「ちょっと時間がなくなっちまってな。俺も、少し集中して鍛錬する場所が欲しかっただけだ」
・・・・・・時間が無い?

「時間が・・・・・・なくなった?」
一護が先に口にする
「・・・・・・どういう意味だ?」
俺も続く



「・・・・・・・・・そうだな。てめえらには教えといてやる」
間を空けてから、恋次が話し始めた


「ルキアの処刑時刻が変更になった」



「・・・・・・・・・・・・何だと?」
嘘だろ・・・・・・そしたら、今度は一体いつに・・・・・・?


「新しい処刑の時刻は・・・・・・」












「明日の正午だ」




明日・・・・・・だと?

「癪な話だが、今の俺の力じゃルキアを助け出すには少しばかり足りねえ。だからここへ来た」

恋次だって、この結果については驚いてるはずだ
なのに・・・・・・表に出さぬよう、おさえて話してる。悟られたくないのか?それとも・・・・・・


「安心しろよ。何もてめえの修行をジャマしようってワケじゃねえ」
そう言いながら、今度は俺たちから離れていく

「俺も具象化までは習得済みだ。卍解まではあとわずか」

そう言い終った途端、恋次の手元から霊圧が湧き出てきた

「こっちはこっちで、好きにやらせて貰うぜ」
そう言った途端、霊圧が膨れ上がり・・・・・・そこには、見慣れない姿をした物があった



「それが、お前の斬魄刀の本体か?」
「ああ、そうだ。コイツが俺の斬魄刀の本体だ」

・・・・・・名前のまんまだな。尻尾が蛇



「・・・あ・・・明日・・・・・・じゃと・・・?そんな・・・」


恋次が答え終わったすぐ後に、後ろから今にも消えそうなぐらい小さな声がした
・・・・・・夜一様?

「・・・それではとても、卍解なぞ・・・」

・・・・・・夜一様が、いつもとはまったく違う
今の恋次の言葉に、動揺してしまっている・・・・・・



「夜い・・・・・・」
夜一様。そう呼ぼうとしたが、俺はその言葉を最後まで言うことはできなかった



バンッ!!



何かが砕けるような音が響く
一護が、自分の手にしていた刀を砕いたのだ


「・・・そんなんでいいのかよ、夜一さん・・・」
静かに言い放つ
「この修行・・・あんたから誘ったんじゃねえのかよ・・・。だったら、あんたから諦めてんじゃねえよ・・・」

そうだ。諦めたら、そこで何もかも終わっちまう

今まで、夜一様が諦めた所を、俺は見たことがなかった
諦めたくもなるほど・・・・・・この修行は特別なんだろう。じゃなかったら、夜一様が諦めることは無い

「じゃが一護・・・!もし明日までに卍解が完成せねば・・・」
「言ったろ」

一護が言葉をさえぎる

「できなかった時のことは聞かねえ。期限が明日になったってんなら・・・」
明日になったら・・・・・・やることは一つ




「今日中に片付けりゃいいだけの話だ!!!」


期限が迫ったのなら、それより前に片付ければいい
・・・・・・一護らしいといえば、一護らしい

その様子を見て、恋次は笑っていた



・・・・・・やっぱり、試してたんだな

処刑の時刻を聞かせ、一護がどう動くかを
諦めればその時点で、いかなる状況になったとしても、一護にルキアを助け出すことはできない

だが・・・・・・一護の気持ちは、恋次の言葉を聞いても変わらなかった
それどころか逆に、いい刺激になったようだ

これからの修行は、一層激しさを増す。中途半端な気持ちになった時点で・・・終わりだ




「・・・・・・そいじゃ、俺もやるか」


その場で斬魄刀を抜く

「そいじゃって・・・・・・何やるんだ?」
目が点の一護


「俺も卍解の修行してたんだよ。ルキア助けるのにコイツを使うんじゃ、まだ力不足だからな」

二つの別々の卍解。過去に、それを成せた者はいない
元々、他人の斬魄刀を使おうとする者だっていなかったんだ。俺が・・・多分初めて

「じゃが・・・・・・転神体はこれ一つじゃ。同時に二つというのは・・・・・・」
「・・・・・・わかってます。でも、これならどうですか?」


恋次がやったのと同じように・・・・・・斬魄刀に霊力を込める

その瞬間・・・・・・



昨日と同じ、この斬魄刀の本体が姿を現した

「俺だって、ただルキアを助けるために動いてたわけじゃないんですよ」


昨日転神体を使ったときに、具象化の大体のコツはつかんだ
ぶっつけ本番だけど、この斬魄刀での具象化レベルには達しているようだ

それに、一度できるようになったものだ。霊圧に少し違いはあるが、道具を使わずともすぐにできるようになる




「・・・・・・もはや悩む時間も、その必要もない・・・というわけか・・・・・・」

夜一様が呟く



「いいじゃろう!ここまで着た以上、止めはせぬ。・・・・・・はじめるぞ」


そういい終わると同時に、全員が、具象化した本体へ斬りかかっていった




―――処刑まで、残り1日―――




あとがき
書きおわったーっ!!!
行事とかが重なりまくったもんで、全然更新できませんでした
何とか一個進んだけど・・・・・・内容メチャクチャだな・・・・・・

それでも何とか修行編が中盤に入りました!!
・・・・・・これって中盤か?
ま、まあともかく・・・・・・もうすぐ処刑当日、クライマックスです!!

では、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
2006.11.3 煉城瞳
/〜BLEACH!!〜/