〜BLEACH!!〜
第二十九話
「やれやれ・・・あんなのに入んなくたって、こんな傷、大丈夫なのに・・・」
誰にも聞こえないように呟く
『今までの疲れもあるじゃろう。一護のところへ行って来い』
なんていわれたけど、大した怪我してないんだもんなぁ・・・
いろいろ考えているうちに、前方に人影が見えてきた
それにゆっくりと近づく
「・・・よっ!傷、すぐ治るだろ?一護」
修行を終えた一護が、温泉につかっているのだ
「ああ。ここスゲーな・・・・・・ん?」
こっちに振り向いた一護が、首をかしげた
「・・・お前、傷増えてねーか?」
・・・余計なお世話じゃッ!!
「これか?お前の修行中に石に当たっただけだよ」
なるべく表情に出さないように言った
一護がいなくなったと同時に始めた修行は、少し前に終わったばかりなのだ
しかし、修行した時間は15分ほど。一護の修行に具象化を保つための力を使ってしまったらしい
おれ自身が具象化状態に持ち込めるようになるまで、恐らくこの時間が精一杯だろうと言っていたから、早く習得しなければ
今一護に言われたのは、その修行でできた傷。早速見つけられてしまうとは・・・
「そうか・・・ならいいんだけどよ」
・・・この調子で、隠し通せるかどうか
「そういや一護、さっきまた夜一様にからかわれてたろ?」
修行が終わると、夜一様は早速、一護の様子を見てくるといって温泉へ向かった
少し経つと、離れた所にいたのに一護の叫び声が聞こえてきた
更に経つと夜一様が帰ってきて
『奴は、やはり期待通りの反応をするのう・・・』
そう笑いながら言っていた(既に何が起こったかは把握済み)
その後すぐに、一護のところへ行って、傷を癒してこいと言われてここに来たんだけど・・・
「べっ別に!からかわれてなんかねえよ・・・」
そのときのことを思い出したのか、少し顔が赤い
「まあいいけど・・・・・・つーかお前、何十分入ってる気だよ。長すぎだろ」
「しょうがねえだろ!まだ脇腹の傷が治ってねえんだよ!!」
水しぶきを上げながらまた騒ぐ
「あーはいはい。ムキになんなくていいから入っとれ」
夜一様みたいにすると、明日に差し支えるからな
「で、からかわれた後は何話してたんだ?」
何とか話を変えようと、あんま興味ないけど聞いてみた
「あー・・・浦原さんのこととか、夜一さんのこととか。お前のことも少しあったけどよ」
補足説明必要事項か俺は
「でも・・・・・・変だよな。お前って苗字『四楓院』のはずだろ?何で『』なんだ?」
・・・なんでだっけ・・・?
「えーっと・・・確か・・・う〜ん・・・・・・」
「覚えてないのか?」
・・・覚えてるんだけど・・・覚えてないような・・・
「ちょっと待ってよ・・・あ!そうだ。四楓院家からね、出家したの」
「あーそうか、出家・・・・・・あ!?」
遅いな、オイ
「家出じゃないよ。自分からお世話になりましたって言って出てきたの」
ホントの事だし
「だっ・・・だってお前、そのあとも夜一さんと一緒にいたんだろ!?何で出家なんてしてんだよ」
いや、何でって・・・
「その四楓院ってのはすげえ家なんだろ!?何で出てったんだよ!!」
「別に?貴族ってのは特権の中で育つ、何不自由ない暮らしばっかなんだ。そんなの、つまんないじゃんか」
俺があんなに早く死神になれたのも、四大貴族の特権ってやつ
「結構めんどくさいんだよ、礼儀だとか服装だとか」
あのまま過ごせば、余程の才能がない限り、強くはなれなかった
今、こうしていられるのは・・・四楓院を出て、毎日を修行に費やしたからだと思う
その修行をみてくれたのも、夜一様だった
俺は、俺の世界を変えてくれた人に、何もかえせないままあの家を出た
なのに夜一様は、出家した後でもかわらずに接してくれた
「夜一様はあんな貴族の中にいても、ずっとあの強さを保ち続けていられた。でも俺は違う。俺は・・・そんなに強くないんだ」
白打の腕とか、そういう強さじゃない。あの頃の俺には・・・そんな中で生きていける精神は・・・なかったんだ
「だから、出家した後も、夜一様のそばに仕えていたくて・・・夜一様がいなくなるまで、ずっと仕え続けたんだ」
後悔はしていない
あの何不自由のない、特別扱いで過ごす毎日よりも俺は・・・こっちの方があってる
自分の力でしか、夜一様に仕え続けることはできないんだ
だから夜一様も、俺が出て行くことを許してくれたんだ。後悔することなんて、何一つない
「それだけ。わかった?なんでもないでしょ?なんか問題あった?」
一護は何も話さない。何かまずいこといったかな?
「いや・・・・・・やっぱお前って、昔からそういう性格なんだな」
こ・・・この野郎・・・!!
「・・・・・・うるせえ」
ぼそっと呟いた
えっと・・・特に傷もないし、もう夜だろう
さてと、じゃあそろそろもどるか・・・
そう思ったその時
脳の中を何かが駆け巡った
いや・・・体が何かを感じ取った
微かだが、とても強い・・・霊圧か?・・・よくわからない
しかし、これが霊圧でなくとも、これを発する何かがあるわけだ・・・でも一体誰が?
・・・・・・もしや・・・!
「一護、お前なんかしたか?」
まだ温泉に浸かってる一護に声をかける
「あ?何もしてねえぞ。どうかしたか?」
・・・何もしていないか。そりゃそうか
じゃあ・・・今のはなんだ?
「一護、何か感じない?」
中にいるのは俺と一護、夜一様だけだ。夜一様が何かするわけないから、恐らくこれは外から
「何かって・・・何もねえぞ」
・・・聞くだけ無駄だった!!
「そうかい。じゃあ気のせいだ」
それだけ言うと、足早にそこを立ち去った
変だな・・・・・・やっぱり気のせいか?
もう温泉は見えない。岩の陰に隠れた
考えてもわからんだろうな、こりゃ
「夜一様っ!!」
さっきの場所まで戻ってきた。予想通り、夜一様が何かしていた様子はない
「なんじゃ?もう戻ってきたのか?」
いや、もうかなり時間経ってます
「はい。それより、何かさっき感じませんでしたか?微かでしたので、はっきりとはいえませんが・・・」
夜一様なら、もしかしたら・・・
「いや?別に何もなかったが。どうかしたのか?」
あれ?じゃあやっぱり気のせい・・・
そう思ったとたん、さっきと同じような感覚がまた伝わってきた
気のせいじゃない。どんどん強くなる
近づいてるとか、そういうんじゃないな。だんだん正確に感じ取れるようになってきてるからだと思う
「まただ・・・!」
どうやら、夜一様には伝わって来ていないようだ
「どうした?なにがあった?」
何を聞かれても、なんとも言えない。だってわからないんだもん
こうなったら・・・!!
「ちょっと出かけてきます!!」
一目散に、空間の出口に向かう
「待て!!どこへ行く!?」
下から夜一様の声がする
壁から出っ張っている所へ手をかける
「わかりません!でも・・・ちゃんともどります!!」
体を持ち上げ、一回転し、出口を抜けた
部屋を目にも留まらぬスピードで通過。そのまま外へ飛び出した
「・・・なんだこりゃ・・・!!」
中では微かな霊圧だが、外に出た途端にどんどん伝わってくる
この霊圧の位置は・・・
「隊舎があるほうだ・・・!」
数は・・・四人か?やけに霊力がでかいのが二人いるな
そんで、その中の一人は・・・最近触れたばかりのこの霊圧。こいつは・・・
「・・・ギンだ・・・。何やってんだ?」
相手は・・・織姫たちじゃないことは確かだ。チャドは捕まってるし、織姫と石田は、こんな暗いときに出かける馬鹿はしない
つーことは・・・俺馬鹿って事じゃんか
軽くため息
まあ、それはいいとして。何故こんな時間にギンが外にいて、何をやっているかだ
とりあえず急いだほうがよさそうだ。何が起こっているかを、なるべくなら正確に把握したいから
もしかしたら、何もないのかもしれないけど・・・あそこまで霊圧が伝わってきた。ただ事じゃないはずだ
あまり人目につかないほうがいいのだが、確かめないわけにはいかない
下に数人の死神がいるが、そんなことには構っていられない。見つかってもいいので屋根を伝って通過する
丁度板張りのような部分が見えるところまで来た
ここは・・・・・・三番隊舎だ
なんだ。ギンが外にいたっておかしくもなんともないじゃないか。だってここはあいつの隊の隊舎だもんな
話してる相手も、どこかの隊長だろう。服が白いし、護廷十三隊の印がついている。数まではわからないが
とりあえず、ここまできてしまった以上、見つかることは避けたい
だが、今ここで急な動きを見せればすぐに気付かれる
ここは逆に、やたらと動かないほうがいい
それに、なにか話してるみたいだから、どこかの陰に隠れれば、何とか見つからずにやり過ごせるだろう
隊長格は何かと裏の事情などを知っていることが多い。もしかしたら、何か耳寄りな情報を聞けるかもしれない
一番上手く隠れられるのは・・・・・・
辺りを見回して、若干血の気が引いた
板張りの床があるだけで、ただの草原のような場所のため、隠れられるような場所がない!!
弱ったな・・・・・・しょうがない
『三』と大きく書かれている建物の屋根に着地する
ここでも別に困らないのだが、ギンの真正面なのでヤバイかもしれない
まあいいか・・・別に見つかっても、深追いしない奴だから・・・
「どれどれ・・・」
屋根に片膝をつき、下の様子を見る
「ギンと、あれはイヅルかな?それから・・・・・・え!?」
一番近くにいるのは、桃と・・・日番谷隊長
別にそれは問題ない。イヅルと桃は仲良いし、イヅルの隊長のギンが一緒にいるのもおかしくはない
日番谷隊長は、昔桃と一緒に住んでたらしいから、仲というか何と言うか、とにかく仲がいい。一緒にいてもおかしくない
問題なのは・・・その仲の良い日番谷隊長に、桃が剣をむけているってこと・・・
「・・・何やってんだ?あの二人・・・」
何か話しているようだが、どうも聞こえない
よく耳を澄ますと、なにやら桃が日番谷隊長に向かって話している
「日番谷君が見つけてくれた手紙・・・なんて書いてあったと思う?」
何も返事をしない隊長。表情は見えないが、驚いていることは確かだ
「・・・雛森君。君が、この手紙を読んでいるのなら、ぼくはきっと帰ることができなかったのだろうね」
一呼吸おいてから、桃が話し始めた。どうやらその“手紙”の内容を、全て暗記しているらしい
それにしても・・・帰ることができない?誰のことだ?手紙って一体・・・?
「君には色々と心配をかけたね。そのことは、どんなに労いの言葉を重ねても、足りることはないと思っているよ」
・・・労いってなんだ?
「今まで僕は君に、僕の感じる不安について語ったことはなかった。だけどそれは、君を巻き込みたくなかったからだという事をわかって欲しい」
ぜんぜん話がよめん。巻き込むだとか心配かけたとか
「そしてどうか許して欲しい。ここまできて、君を巻き込んでしまう僕の事を」
まったく。文面だけじゃ、ほんとにごっちゃになるぜ
桃に謝んだか謝らないんだか、はっきりしろよ。これじゃ心配かけたとかそういう内容より、後の方が大事みたいじゃないか
「僕は恐らく、既に生きてはいないだろう。だから、僕の最も信頼する君のために、僕の暴いた真実の全てをここに記す」
真実・・・?何の話だ?またわけがわからんぞ
「何故朽木ルキアは処刑されなければならないのか。何故その期日は早まり続けるのか。それを調べるうち僕は、一つの事実に辿り着いた」
・・・大事な話だった!!
さっきよりも、さらに前へ乗り出す
やっぱり、この処刑には裏があったんだ!どこの誰だか知らんが、詳しく調べてくれたようだ。ここに来てよかったぁ
「この処刑の真の目的は、朽木ルキアを殺すことではない」
・・・じゃあ何でルキアが処刑に・・・?
「この処刑は、それ自体が、ある物を奪うために仕組まれた物だったのだ」
ある物?処刑したら何か手に入るのか?そんな話、聞いたことないぞ
「そのあるものとは・・・・・・双極だ」
は!?どうやって奪うんだよ、あんなデカイやつ
「処刑の時のみその封印を解かれる双極は、矛の方には斬魄刀百万本に値する破壊能力が。磔架の方には、同等の斬魄刀を防ぎきる防御能力が備わっているとされ・・・」
あ、それしってる。昔夜一様から教えてもらったから
「更に処刑により死神の体をはりつけ・貫くことによって、その力は瞬間的に、その数十倍にまで膨れ上がると言われている」
・・・それは知らん。処刑されるとこなんか、見たことないし
「この処刑を仕組んだ何者かは、その力を使い、瀞霊廷のみならず、尸魂界そのものを破滅させようと企んでいるのだ」
・・・そんな裏があったとは・・・
この文章が全て正しければ、ルキアの処刑が始まった時点で、その強大な力とやらは処刑を企んだ者の手に渡ってしまう
もし、そんな物が相手に渡ってしまったら・・・この世界、尸魂界は消滅する
そして・・・この世界が消えれば・・・現世で死者達が行き場をなくし、現世に魂魄が集まる
それはいずれ、世界のバランスを崩し、現世までもが破滅する・・・
誰がそんな企みを?そんな事したら、自分の行き場まで失う羽目になる。いいことなんて、何一つない
「その忌わしき者の名は・・・・・・・・・」
だれだ?とにかくそこは、何が何でも知りたい
「・・・日番谷冬獅郎」
なん・・・だと・・・・・・?
「・・・そう・・・書いてあったのか・・・?藍染の手紙に・・・」
刀を向ける桃の目には、涙が溜まっていた
「・・・そうよ・・・そして、こう続くの」
藍染隊長の手紙だと!?じゃあなにか!?藍染隊長は・・・死んだってのか!?
「今夜僕は、東大聖壁の前に彼を呼び出しておいた。彼の企みを、何としても阻まなければならない」
殺したのは日番谷隊長で・・・場所は東大聖壁。そんな・・・・・・こんなことが起こってたなんて・・・
「彼が退かぬなら、刃も交える覚悟だ。」
真実を知った藍染隊長は、日番谷隊長を呼び出し、そして・・・・・・
「だけど、もし僕が死んだなら、雛森君。どうか僕の意志を告ぎ、彼を討ってはくれないか」
日番谷隊長を倒すことに失敗した藍染隊長は殺された
本人もそのときのことを考え、この企みを阻止するべく桃に手紙を残し、意志を引き次いでもらって・・・・・・え・・・?
「それが僕の・・・・・・最後の願いだ・・・」
何でそうなるんだ?だってこの手紙のはじめに・・・
「五番隊隊長としてではなく・・・一人の男として・・・・・・君に・・・・・・願・・・う・・・」
よく考えろ・・・。あの藍染隊長が、桃に代わりに戦ってくれって言うか・・・?
しかもその相手は日番谷隊長。いくら藍染隊長の仇とはいえ、桃にとっちゃ戦いづらい相手の筈
もし仮に、藍染隊長を日番谷隊長が殺したのなら・・・日番谷隊長は桃だって殺すことになる
藍染隊長なら、桃をそんな目にあわせるか?
ただでさえ日番谷隊長と戦うのは、桃にとっちゃ凄いキツいんだ
それなのに・・・藍染隊長は、桃に戦えって?
ほんとに、藍染隊長は・・・そんなこと書いたのか?
「ああああああ!!!」
桃の叫び声が耳に入った
振りかざした刀を、日番谷隊長にむけて振り下ろす
ドンという音と共に煙が立ち、二人が見えなくなる
始まっちまった・・・こんなこと、おこっていいはずないのに・・・
地面をこすりながら、日番谷隊長が出てきた
「バカ野郎、雛森っ!!よく考えろ!!自分が死んだから、代わりにお前が戦えだと!?藍染の奴がそんな事言うと思うか!!」
そうだ、言うはずないんだ・・・。でも、何で手紙にはそう書いてあったんだ・・・?
「俺の知ってる藍染はな!勝ち目の無え戦いに一人で出向くような馬鹿でも、その尻拭いを部下にさせるような腰抜けでもなかったぜ!!」
桃も、隊長に続いて煙の中から出てくる
「だって!書いてあったもの!!見間違えるはず無い!!あれは藍染隊長の字だったもの!!」
そう言いながら、また日番谷隊長めがけて剣を振る
「あたしだって!信じたくなかったもん!!でも藍染隊長がそう言ってるんだもん!!」
ダメだ、完全に桃は混乱してる。これじゃ隊長の言葉が届くはず無い
「あたしはッ!!藍染隊長を・・・!!あたし・・・!あた・・・」
突然、桃の動きが止った
「・・・あたしもう・・・どうしたらいいかわかんないよ・・・シロちゃん・・・」
やっぱり・・・何も判断できないとこまできてる
このままじゃまずい。多分、日番谷隊長は・・・藍染隊長を殺してなんかいない
だが、それを裏付けられる証拠がない・・・これじゃ桃をとめることができない
「・・・う・・・ああああああっ!!!」
また、桃が隊長に向かって剣を振り下ろす
上に跳び、斬撃をかわす隊長
「くそォ・・・ッ!」
俺のいる位置と、大体同じ高さまできた
あ・・・ここじゃ見つかるかも・・・!
場所、変えたほうがいいかな?見つかったらまた厄介なことに・・・・・・え?
変える・・・・・・そうか!!
藍染隊長は、日番谷隊長が犯人だと言ったんじゃないんだ!!
名前の部分だけを、誰かが自分に都合がいいように、日番谷隊長に改竄したんだ!!
名前の改竄された手紙が桃の元へいき、二人が上手く潰しあえば、真実を知るものはいなくなる
これが犯人の狙い!!
そして、藍染隊長の死により混乱してる桃は、犯人の思うとおりに引っかかってしまったんだ
だとしたら、早く止めなくては!!
このままじゃ・・・取り返しのつかないことになる!!
あとがき
話がつながらないんで、ヒロインの苗字の理由と、何故かギン&日番谷のもとへ行かせました
よくよく読んでみると、いつまで経っても藍染の手紙って気がつかないヒロインって・・・と思いました
にしても、あの勉強部屋みたいなところからヒロインを引っ張り出すのには苦労しました
どういう理由をつけようか悩んで・・・結局適当になっちゃったんですけどね!!
では、ここまで読んでくださりありがとうございました!!
2006.8.8 煉城瞳
前/〜BLEACH!!〜/次