思考が止まる
名前、出てくるのわかりきってたはずなのに
テレビとかでだって、見たはずなのに
その名を聞いただけで、頭の後ろを殴られたような感じがした
「せ、と・・・?」
002.再会
「!!」
肩に軽い衝撃を感じて、我を取り戻す
「じょ、のうち君・・・」
「大丈夫か?」
は少し上がった息を整えた
ごくりを生唾を飲み込む
「ごめん、大丈夫・・・」
遊戯が床に落ちたカードケースを拾い上げてに手渡した
「ありがとう」
「ううん」
―――・・・!
カードケースを鞄に入れようとする自分の手を見て驚いた
ほんの僅かだが、微かに震えている
「・・・。もしかして、海馬君と知り合いなの?」
「・・・・・・」
杏子の問いに、どう答えればいいのかわからなかった
今日初めて会った人たちに、過去を晒すのは相手にとって失礼な気もする
第一、語るとなると自分が辛い
「そりゃあ、知り合いだろ。だって、海馬も全国大会出てんだろ?そこで会ってるはずじゃねーか」
本田は尤もなことを口にした
「でも、海馬君が優勝したのは、今年の全国大会なんだ。確か、は今年の大会には出てないよね?」
「そういえば、そうだよなぁ・・・。なぁ、どうなんだ、?」
「え・・・」
が口ごもってるところに、タイミング良くチャイムが鳴った
「やっべ!!準備してねぇ!!」
城之内はあとで教えてくれよな!と指を立てると、ロッカーに急いだ
遊戯と本田がその後を追う
「・・・」
顔を上げると、杏子が心配そうな表情で目の前に立っていた
「もし、言いたくないなら、あいつらの言うことなんて無視しちゃっていいからね。でも、一個だけ覚えておいて欲しいの」
「・・・?」
「辛いことがあったら、一人で抱え込まないで。あんなのだけど、すっごいいい奴らなんだ。だから、何かあったら私たちにいつでも相談してね」
杏子はそれだけ言うと、じゃ、また後でと手を振った
「・・・ありがとう・・・、杏子」
誰にもきこえないような声で、小さく呟いた
授業はまったく耳に入ってこなかった
とは言っても、転校前に全て一回やったことのある内容だから今更きく必要もないことだった
昼休みまでの間は、なんとか杏子が気を利かせて、話題を変えてくれたが、さすがに帰りのHRが終わる頃、城之内の我慢は限界に達したようだった
挨拶が終わるや否や、に駆け寄ろうとする城之内を、杏子が引きもどす
「杏子!!なんでさっきっから朝のこと訊かせてくれねぇんだよ!!気になんねぇのか!?」
「気になるわよ!!でも、ちょっとはの気持ちも考えなさいよ!!」
「はぁ!?」
「杏子・・・」
がゆっくり二人に歩み寄る
「ありがとう・・・。でも、もう大丈夫」
「・・・」
深刻そうな空気に、城之内は少し戸惑ったが、すぐにいつもの威勢を取り戻した
「んじゃあ、教室で話すのもあれだし、購買行こうぜ!遊戯ー!本田ー!」
遊戯と本田が鞄を持って城之内に向かって走りよる
杏子はを心配そうにチラリと見たが、すぐに目を伏せた
「さーてと」
珍しく生徒が少ない購買部に入り、一番窓際の席に腰を下ろすと、城之内が待ちきれんと言わんばかりに切り出した
「教えてくれよ。海馬と知り合いなのか?」
「・・・っ」
やはり、その名前は衝撃が強いらしく、はぴくりと震えた
「話すと、長くなるけど・・・」
「ああ、聞くぜ!」
にこにこと満面の笑みで城之内が答えた
「瀬人、とは・・・。孤児院で一緒だったんだ」
その場にいた全員が驚いたように目を見開いたが、誰一人として口を挟もうとしなかった
「すごく、優しかった。彼の弟に対しても、私に対しても。いつも、三人一緒で遊んでた。チェスでは、滅多に勝てなかったっけなぁ・・・」
は懐かしそうに小さく笑った
「でも、ある日、瀬人が養子に貰われることになったの。もちろん、苗字を聞いた。だけど、瀬人は教えてくれなかった。いつかお互いを見つけるまで秘密だって。理由はわからないけど、もしかしたら、私が追いかけるのを恐れたのかもしれない・・・。嫌われたのかと思った。・・・だけど、瀬人は約束してくれた・・・。絶対に、またいつか会おうって。
瀬人が去ってすぐ、私は中学生になった。財産もあまりなかったから、本当は公立しか道がなかったんだけど、思い切って私立の昊鐘学園を受けて、特別特待生として入学したの。それだったら六年間授業費がかからないし、・・・何よりも瀬人に近づきたかった。彼はすごく頭がよかったから・・・」
全員が全員、黙り込んでしまった
いきなり語られた過去が、そこまで深刻なものだと思わなかったのだろう
「学園生活は楽しかった。でも、ずっと瀬人が忘れられなかった。・・・そして、高等部に進学して、二学期が終わる頃・・・、海馬コーポレーションの社長が変わったことを知った。元々デュエルモンスターズが好きだったし、海馬コーポレーションがソリッド・ヴィジョンを開発してることを知ってたから、もちろんすぐにそのことを調べたの。そしたら―――」
「それが、奴だったってわけだ」
本田の言葉に、がゆっくりと頷いた
「だから、海馬君がいるこの学校に転校してきたんだね。・・・海馬君も転校してきたばっかりだけど、そのまで大きい会社の社長がいる学校なんて、すぐ有名になるからね。・・・ん?」
冷静に分析していた遊戯だったが、隣からきこえてくる音に眉をしかめた
全員がその方向を向いて、ぎょっとした
「え・・・、城之内・・・?」
「うっ・・・、うぅ・・・」
音源である本人―――城之内が拳を握り締めたまま目から大量の涙を流していたのである
乱暴にそれを拭うと、の両肩に手をおいて力強く語りかけた
「!俺にできることなら、なんでもすっから、どんなことでも言ってくれ!!!」
「え、う、うん、ありがとう」
言った後に、目尻が熱くなるのを感じた
「ありがとう・・・」
「泣くなって!!ダチなんだからあたりめぇだろ!!」
本田がポンポンとの肩を叩いた
「私たちも協力するわ!ね、遊戯」
「もちろん!!」
「みんな・・・、本当にありがとう」
は満面の笑みを見せた
「でよぉ・・・」
校門から出てすぐ城之内がいきなり声を出した
「あの空気の後に、なんで杏子も本田も帰っちまったんだ!?普通そのまま全員で頑張れよ!!なバーガーだろ!?」
「いや・・・、なんでバーガーなの・・・?」
遊戯が訝しげな目で城之内を見た
「はぁー・・・。薄情な奴らだぜ・・・!」
「城之内君、あの、私は大丈夫だから、ね?」
「そうは行かねぇぜ!!海馬のヤローだってのが気にいらねぇが、俺は全力でお前らを会わせんだ!!今から海馬コーポレーションに乗り込むぜ!!」
「「えぇええ!!!???」」
「よっしゃ!!出発だ!!」
と遊戯の声が見事に重なったが、それを気にもせず城之内は一人で突っ走っている
「だ、だめだって!!私も知ってから何回か乗り込んだけどだめだったし・・・!!」
「いや、えぇえ!?」
遊戯が二回目の驚き声を上げた
―――なんか・・・、突っ込み所が違う気がする・・・!!
「そっかー・・・。畜生、どうすりゃいいんだ!?あいつ、滅多に学校来ねぇし・・・」
「ほ、本当にそこまで私の為に考えてくれなくても大丈夫だから・・・」
「いや!!俺の気が済まねぇ!!あ、俺のことは君付けしなくていいぜ!!つーか、克也でいいからな!」
「う、うん?」
「俺もって呼んでるんだから五分五分だろ!!克也な!!」
「え、じゃ、じゃあ克也・・・?」
「よし!」
「あのー・・・」
本日何度目かの置いてけぼりを食らっている遊戯は、小さく二人を呼んだが、中々気付いてもらえなかった
「・・・・・・。・・・?」
ふと、何かの音に気付いて遊戯が視線を移した
道路に黒いリムジンが止まる
黒いスーツを着た運転手らしき人が車を降りた
「?・・・、城之内君・・・」
やっと声に気付いたらしい二人が、遊戯の指差す方を見た
運転手は、三人の前に止まると、一礼した
「様、武藤遊戯様とそのお友達の方でございますね?瀬人様の仰せによりお迎えに上がりました」
「!!」
が大きく目を見開いた
「瀬人が・・・。・・・っ」
「行こうぜ!!!!」
「うん!」
「遊戯・・・、克也・・・」
は微笑んで頷いた
その時、リムジンの助手席から誰かが飛び出した
「姉サマ!!」
「・・・!!モクバ!?」
見覚えのある黒い癖のついた髪
子供らしい顔つき
「モクバ!!!」
モクバは思いっきりに飛びついた
「会いたかったぜぃ!!姉サマ!!!夢みたいだぜぃ・・・!」
「私も会いたかったよ!!久しぶりだね・・・!」
「うん!!あ、姉サマ!!俺、副社長なんだぜぃ!!話したいことがいっぱいあるんだ!!」
「へぇー!!すごいね!!さすがモクバだー!」
「兄サマのお陰なんだ!今度、ゆっくり話そうぜぃ!!取り敢えず、リムジンに乗ろうぜぃ!」
「そうだね」
―――海馬君の弟・・・
遊戯はその光景を見ながら少し緊張が走るのを感じた
嫌な予感がしないと言えば嘘になる
隣を見ると、城之内も複雑な表情でそこをじっと見ていた
モクバに手を引かれて先に車に乗ったに続き、二人も運転手に案内されて後部座席に腰を下ろす
車が発進すると、遊戯が躊躇いがちに口を開いた
「あの、モクバ君だったよね。なんで海馬君は僕達を呼んだの?」
「ああー、それはねー」
の膝に乗ったままのモクバが横を向く
「兄サマの進めていたプロジェクトが完成して、明日は落成式が行われるんだ。それで、前夜祭も兼ねて、遊戯君と城之内君を招待したんだぜぃ!」
「プロジェクト・・・?なんだぁ、それ?」
「おっと、それは秘密だぜぃ!!見てからのお楽しみさ!!」
子供らしい笑顔でそういわれると、それ以上問いただす気にもならない
しかし、遊戯はどうしても胸の靄が取れなかった
それ以来、モクバは一度も遊戯と城之内の方を向かず、との話に花を咲かせていた
十五分程車は走り、そして、鉄の門の前で止まった
「さぁ、ついたぜぃ!!!」
「「「!!!」」」
モクバ以外の三人がポカンと口を開けた
何故日本にこんな屋敷が存在するのだろうか、と誰もが思うような家を見上げる
「こっちだぜぃ!!」
モクバに手招きされ、鉄の門をくぐり抜ける
屋敷の扉までも距離があり、冬だから葉はつけていないものの、様々な植物が綺麗に整備されていた
頑丈そうな扉を開けるとエントランスホールにずらりと並んだ執事が四人を出迎えた
その中でも特に年長だと思われる老人が前に出る
「ようこそ、お待ちしておりました。瀬人様から心づくしのおもてなしを致すよう言い付かっております」
「おい、兄サマはどうした!!」
「先ほどから、お部屋の方でお休みになられておりますが・・・、さては、そちらの方は様でございますか?」
「ああ、そうだぜぃ。姉サマだ」
モクバが、ね!との方を向いて笑った
「そうでございますか・・・。様がいらっしゃったら、部屋に通すようにと・・・」
「らしいぜぃ、姉サマ!」
「・・・!」
「おい、大丈夫なのか!?」
城之内は二人を会わせるとは言ったものの、いざとなったらやはり心配のようで、咄嗟にの腕を掴む
「もちろん!それに、・・・私は瀬人に会う為にずっと・・・」
「・・・。だよな。悪いな、いきなり」
「ううん、ありがとう」
はまた後で、と言うと、モクバの方に向き直った
「部屋って・・・」
「もちろん、俺が案内するぜぃ!!」
モクバは小走りで階段を駆け上がり、手招きをした
もそれに続く
「遊戯君、城之内君、ちょっとそこで待っててくれ!!それと、お前ら、例のコースを用意しろ!」
「かしこまりました」
は遊戯と城之内に向かって大きく手を振ると、モクバを追いかけた
「兄サマ、すっごい姉サマに会いたがってたぜ!!社長になる前は、いろいろあって探せなったみたいだけど・・・」
「いろいろ?」
「話すと長くなるんだけど、養父がとんでもない野郎だったんだぜぃ・・・。・・・兄サマはその話をしたがらないだろうから、俺が今度ゆっくり教えるぜぃ」
「・・・?」
「兄サマの部屋はここだぜぃ」
一際豪華な扉の前でモクバが止まった
「じゃあ、俺はあいつらをもてなさなきゃいけないから戻るぜぃ!!またな、姉サマ!!」
「うん、案内ありがとう!」
モクバが曲がり角に消えるのを見送ってから、再度目の前にある扉に目を向けた
―――この中に、瀬人がいる
今日はいろいろなことが風のように過ぎていった
転校初日に、ここにたどりつけるなんて―――
震えながら、目の前にある扉を二回ノックした
「入れ」
一瞬、全身が痺れた
五年前と比べると、低い、しかしそれは、確実に探し求めていた人の声だった
目の前の扉を思いっきり押した
電気のついていない、真っ暗な部屋に飛び込む
後ろで扉が閉まった
「瀬人、瀬人・・・!!せ、と・・・!!どこにいるの・・・!?」
突然、後ろからふわりと抱き竦められる
「ずっと・・・、会いたかったぞ、・・・」
抱きしめる力を強くしながら、肩にかかった髪を手ではらい、首に顔を埋めた
もう片方の手でブレザーのボタンを外していく
「っ・・・、探したよ・・・」
「ああ、」
一瞬離れたと思ったら、ブレザーを脱がされ、後ろにあったベッドに押し倒された
ずしり、と重みがのしかかってくる
顔も見えない間に、いきなり口付けられた
「ん・・・、ふぁ・・・」
「はぁ・・・っ」
久しぶりのキスだったためか、息をつぐタイミングがわからない
酸素を求めて口を開くと、舌が口内に侵入してきた
抵抗なんて、するつもりもなかった
自分からも舌を絡ませる
「んぁ・・・、せ・・・、とぉ・・・・っ」
部屋中に水音が響く
角ばった手がリボンを取ったあと、ブラウスの前を肌蹴させた
数分間は続いただろう、深いキスが終わると、銀の糸が二人を繋ぐ
「はぁ・・・、はぁ・・・」
「もう、二度と離さんぞ・・・。お前は、俺だけのものだ・・・。愛してる・・・、・・・。、・・・」
狂ったように何度もその名を口にすると、彼―――海馬はの首筋に強く噛み付いた
あとがき
すみません。遂にやってしまった。
・・・まぁ、もう高校生だし(管理人が)、
このぐらいは書いてもいいかなぁって・・・!!
まぁ、突っ込まないでやってください・・・!!
注意にも書きましたが、この連載の社長は少々ヤンデレです。
ツンデレではなく堂々とヤンデレです。
ぶっちゃけ、ヒロインもちょっとヤンデレ入ってまs(黙れ)
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!
2008.05.11 晴天マユミ
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