「優しいね」




ローブの下で杖の柄をいじりながら声のする方へ俺様は目を向けた
顔はよく見えないが、黒いローブに身を包んだ女が立っていた




「なんだ、貴様は」
「貴方は今、殺そうと思えば、あの子を殺すことができた」





その女は俺様の問いには答えず、ついさっき逃げ去った餓鬼へと目を向けた
遠くにいる母親になきついているようだ
(なんと馬鹿馬鹿しい)





「俺様の問いに答えろ」
「何故殺さなかったの?闇の魔法使いの頂点に君臨している、ヴォルデモート卿ともあろうお方が」
「答えろと言っている!」





自分でも何故ここまで声を荒げたのかわからなかった
それは、単にその女が自分の言っていることに耳を傾けないからだろうか
(はたまた、闇の帝王を目前にし、ここまで平然としていられる人間を始めて目にしたからであろうか)





その女は小さく微笑むと、フードを取り去った




、だよ。覚えてもらえた?」




思わず、目を見開いてしまったことに自分でも気付いた
どうせ身の程知らずな闇祓いか何かだと思ったのに、





「まさか、餓鬼だとは・・・な」
「貴方が何よりも望んでいる、不老不死の力を持ってる、ね。ここ大事。・・・もっとも、生まれたのはつい最近だけどね」
「不老不死・・・だと?」





杖を取り出し、自分の元へ徐々に近づいてくる女に向ける





「貴様が、その力を持っているとでも?」
「そう」





ほんの一メートル程離れたところで、とやらは足を止めた





「俺様が、貴様を殺したらどうなる?」
「無理だよ」
「やってみなければ、わからないだろう?」
「じゃあ、試してみなよ」





その挑発するような口ぶりに、俺様の中で何かが弾けた





「アバダ・ケダブラ」





緑の閃光が走り、女が倒れるのを見た
―――はずだった




「っ!?」




次の瞬間、思わず杖を落としそうになった
その女―――とやらが、あろうことかこの俺様に―――
(口付けて、いる)


その女の後ろで行き場をなくした閃光がバチバチと散った




振り払おうとすれば振り払えることは明白だったが
―――何を血迷ったか、俺様は敢えてそうしなかった




少し唇が離れたところで、初めて奴の瞳をしっかりと捉えた



「・・・真紅の瞳、か」
「そう、貴方と同じ。・・・愛してる・・・よ」




奴はもう一度俺様の唇に吸いついた




(だが、生憎、俺様には女に責められるという趣味はない)







杖を持っていない片方の手で、の後頭部を固定し、自ら彼女の唇に舌を差し込んだ



「ん、ぅ・・・」




奴の切なげな声が聞こえる
俺様は杖をしまい、無意識に女のローブの中に手を差し込んだ






その瞬間、は酷く驚いた顔をして俺様から飛びのいた






「な・・・!」
「どうした?貴様から誘ったではないか」
「ちが・・・っ!そういう意味じゃ・・・!」





奴は真っ赤になって俺様から目を背けた
―――面白い





「・・・今日は警告しに来ただけ」
「なんだ」
「・・・貴方が今からやることは、成功しない」
「警告だけは、受け取っておこうか。だが、貴様になんと言われようと、俺様はやらねばなるまい」




は一瞬、行かないで欲しいと願うような視線をこちらに向けた



「行か、ないで・・・!」
「無理だな。・・・貴様の正体は知らんが、後々聞いてやろう」
「っ、」







そのまま俺様は奴の横を通り、目的地へと足を速めた




「また、どこかで会えることを・・・、願ってるよ」





バチン、と音がして、振り返ったときには奴は消えていた

















私は、朧な月を見上げた
それから、目の前に立つ男に目を向ける



あれから―――闇の帝王が消息を絶ったあの晩から、十三年が経った






「随分、酷い姿になったね。警告したのに」
「お前は相変わらず餓鬼のままだな」
「私には、貴方が欲しくてたまらない不老不死の力があるからね」





欲しくてたまらない、のところを敢えて強調して嫌みったらしく言ってやった
だけど、そいつは―――ヴォルデモートは、それをふんと鼻で笑った






「どの道、俺様は復活した。―――俺様の魂の欠片がこの世界に散らばっている限り、俺様が滅びることはない」
「まぁ、その分霊箱に私を選んだのは正解だと思うよ。私を殺さず、分霊箱を破壊する手段があるかどうかは知らないけど」
「・・・そんな満更でもない表情で厭味を言われたところで、なんの効力もないことを知らないようだな」
「う、るさいっっ!!もう一回ポッターにやられちゃえばいいんだよ!」
「ほう。では何故貴様は今日、俺様の父の墓場に来た?」
「うっ・・・!」






返答に困る私を見て、ヴォルデモートは至極楽しそうな顔をした
(そんな理由、わかってるくせに)






「十三年前のあの晩・・・。貴様が言ったことを俺様が忘れているとでも?」
「あれは・・・!」
「愛している、のだろう?俺様を」






彼の長くて青白い指が私の首筋を滑った



そのままヴォルデモートは、私に彼の唇のない口を軽く押し当てた






「ああ、そうだ・・・。聞いておかねばならないことがある。・・・貴様は一体、何者だ」
「・・・私は、貴方だよ」







目を伏せ、思いついたことをそのまま言った




私ですら自分が何なのかを把握していなかった


気付いたときにはこの姿でこの世界にいて、
まわりの友達が成長していく中、一人だけ置いていかれた




そして、


気付いたときには、遠く、まったく面識も何もない闇の帝王に、
思いを馳せていた









「・・・。そう、か」







絶対また怒らせてしまうと思った私は、予想外の反応に思わず目を開けた
その瞬間、彼の紅い両眼に捕らわれる






「・・・貴様が俺様の復活に、一番力を注いだことを・・・、俺様は知っている」
「な・・・!そんなこと・・・!」
「・・・知っているのだ、。借りを作ったままにしておくのは、性に合わない」





彼の手が、私の頭を撫でた





「何でもいい。・・・望みを一つ、叶えてやろう」
「え・・・」





ごくり、と生唾を飲み込む




「ほん、とうに何でも・・・?」
「ああ」




その自信はどこから来るのだろうか






「なら、私を貴方のものにしてください」





思うより先に、言葉が滑り出ていた

彼はにやりと口端を歪めると、私の首筋を舐め上げた




「ぅ、あ・・・っ」

「惜しいことをしたな、






お構いなしに、唇を下にずらしていった




「願いを使わずとも、そのつもりだった」







その言葉をきいて、一気に涙が溢れ出した



「会いたかったよ・・・。ヴォルデモート・・・様・・・」
「ああ、俺様もだ」



彼が、私のローブの中に長い指を滑らせた
―――十三年前のあの日の同じ


違うのは、今日、私は抵抗しなかった、こと




「十三年間も続きを待ったのだ。・・・今夜は眠れると思うな」



彼の色っぽい声を最後に、私達はベッドに沈んだ











本当は、願いなんてどうでもよかった




ただ、ただ其処に
其処に貴方がいる
(それだけで、私はどうしようもなく幸せで)




あとがき
ぽた七巻を読んでの突発夢。
突発夢は意味不明になるから困る・・・!!(才能を恨め)
帝王様がヒロインに心を許すのがはやいのが何故かはご想像にお任せいたします。
ハロウィンにゴドリックの谷に行った帝王様が愛しかったです。
ハリーに呪いをかけるときに首を傾げる帝王様が愛しかったです。
大好きだぁーーーー!!!!ぶわぁぁぁっ
2008.8.13 晴天マユミ